5月24日、金曜日の晩、Picturehouse Centralで見ました。
今出ているSight and Sound誌の表紙にもなっているRichard Linklaterの新作で、脚本はLinklaterとGlen Powellの共作。原作はSkip Hollandsworthによってテキサスの雑誌に掲載された実録記事(2001)- 実際の舞台はヒューストンで、主人公のGary Johnsonも実在した人物だそう - を元にしている。 Fincher & Michael Fassbenderの”The Killer” (2023)みたいなのを想像していくと軽くひっくり返される、ゆるゆるのクライム・コメディ。
Gary Johnson (Glen Powell)はニューオーリンズの大学で心理学と哲学を教えながら独りで猫2匹と暮らしつつ、ニューオーリンズ市警のバイト職員としても働いている。ある日、市警の担当- 偽殺し屋Jasper(Austin Amelio) - が停職処分で不在となったので、穴埋めでGaryに殺し屋として偽装してもらい、殺しの依頼をしてきた主に接触して本当にやっていいんだな? とか話を聞いて、報酬金を受け取ったところで近くに隠れてそのやりとりを録音していた警察の同僚たちが依頼主を逮捕する、っていう潜入おとり捜査をやることになる。最初は変装してやばい殺し屋 - Ronを演じてみるものの、依頼してくる側も相当おかしくなっている人(のはず)なのでおっかなびっくりで、でもうまくいったら上からは評価されるし面白くてやめられなくなり、その都度の仮装変装もエスカレートしていって、どうやって殺すか、どうやって足跡を絶つか、などのいいかげんな作り話に没頭するようになる – この辺の軽く適当なタッチはLinklaterだなあ、って。
ある日、そうして自分のDV夫を殺してほしい、という依頼をしてきたMadison (Adria Arjona)が気になった彼は彼女の依頼を受けず(=彼女は逮捕されない)、後で彼女とデートをしたりして親密になっていくのだが、彼女と会う時の自分は常に殺し屋Ronのキャラでいなければならず、Gary Johnsonとしての自分を曝け出すことができなくて、あううーってなってばかりで、そんなある日、Madisonがあっさり夫を殺した、って言ってきて、ついでに夫に膨大な額の保険金がかけられていたことが明らかになり、当然彼女は容疑者としてマークされて…
哲学の先生ならコミュニケーションとか恋愛の不可能性とか、Madisonなら相手にしないに違いない普段のGary Johnsonの空虚なありよう、その反対側で、そもそも存在しないのに愛されてしまった架空の男 Ron - 等について十分に想定しうるだろうから、立ち止まって考えこんでしまってもおかしくないのに、彼女にやられてしまった彼はとにかく彼女を救わないと、って動きだしたところに、彼に仕事を奪われた殺し屋Jasperが割りこんで来たり。でもそもそも、ほんもんの殺し屋 – Hit Manなんてそもそもこのドラマには存在していない – そんな場所で、なにをやっているんだ? - という根本に横たわる不条理。
ネタとしては多くの人が言っているようにCoen兄弟あたりがやりそうな話なのだが、結末のてきとーさ、軽さは彼らには出せない味かも。
これをGary Johnsonではなく、Madisonの目線で描いたらどうなっただろうか?結構おもしろいスクリューボール・コメディになったのではないか、とか。或いは偽装殺し屋が女性の方だったら? とか。というのもここでのGary Johnson = Glen Powellって筋肉はいっぱいあるけど(哲学の教師で機械オタクなのになんであんなにびっちり筋肉があるのか、はやや謎としてある)結構女性ぽいところがある気がして、しかもそのありえないかんじがいろんな局面で印象として貼りついてきたり。
それにしても、Glen Powell、一見やさしくて柔くて、なに考えているかわからなくて、でもすぐに脱ぐと筋肉だけはぶっとい – こんなのどんなのにも使えておもしろいのではないか?
あの猫たちがどこに行っちゃったのかが気になる。
6.08.2024
[film] Hit Man (2023)
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