6.13.2024

[film] La Bête (2023)

6月7日、金曜日の晩、BFI Southbankでみました。英語題は”The Beast”。
原作はHenry Jamesの小説”The Beast in the Jungle”(1903)、Bertrand Bonelloがこれを緩く脚色して監督している。

人の運命ってその人の何を決めたり動かしたり、その人の愛や人生にどんな影響をもたらすものなのか、そういうのを信じたり従ったりしてしまうことで巻き起こるどんよりした悲劇 - 全体としてはそれらを横で眺めているしかない - というあたりがHenry James、なのかしら。

最初の舞台は2044年で、AIが殆どの仕事を効率よくやってくれるので、人間はどうでもよいものになっていて、では、よりよい仕事みたいのをするにはどうすればよいのか、機械/AIによってDNAを浄化(purify)して自身の強い感情とか情動を取り除けば、より自分に適した仕事とか自分のあるべき姿を見つけられるのよ、ということでGabrielle (Léa Seydoux)はこの施術を受けるかどうか迷っているのだが、やってみる。液体の溜まった黒い浴槽にぴっちり黒い服を着て身体を横たえて耳の穴付近に針みたいのを…

えーと、まずこの未来設定がよくわかんなくて、DNAをpurifyするってどういうことなのか、それを施術することでどうして過去を遡る体験ができたり、正しい自分を見つけたり感情をより安定したものにできるのか、薬や催眠術じゃだめなのか、なんで? って考えてしまって、ここを飲みこめないと話に入れないようなのでとりあえず飲みこんで潜る。

そうやって最初に彼女がいるのが1910年のパリで、Gabrielleはサロンに出入りするクラシックのピアニストで、夫は人形工場を経営している富裕層で、そこで彼女はLouis (George MacKay)という若い貴族と出会って、心を通わすのだが工場の見学をしているところで大水と大火事が発生してふたりは溢れてきた水で溺れ死んでしまう – この時代設定だと失敗した模様。

次が2014年のLAで、ここでのGabrielleはモデル兼女優をやっていて、Louisは30歳童貞無職のインセルで、彼女に目を付けてつきまとおうとしているところに大地震が起こって、GabrielleのほうからLouisに近づいていくのだが、すったもんだの末に彼は彼女をプールで撃ち殺してしまう。これもなんだかうまくいかなかったらしい。

2044年に戻ってみると、あなたの場合はこの施術が効かない0.7%に該当すると思われる、などどAIに言われ(ふざけんな、よね)、憮然としつつも現実のLouisと会ってみると…

どの時代も不倫だったりストーカーだったり、「まとも」な愛のかたちが示されない、そういう状態の中で、あるべき自分とか、相応しい愛のありようなんてどこにどうやって見いだすことができるのか? ところどころに見え隠れして突然襲ってくる狂暴な鳩とか気持ち悪い怪物の影 – The Beastはどこに巣食う、誰が仕向けてくる奴なのか? そういうのも受けいれざるを得ない運命のようななにかってどこから来るのか? など。

個々の画面のつくりはかっちりしていて(わざとだろうが)CGでクレンジングしたかのように陰影が薄く美しいし – 特に工場の火事で溺れてしまうシーンとか、ふたりの抱擁のシーンで効果的に使われるPatsy Cline の”You Belong to Me" もたまんないし、なんといってもどんより虚ろな無表情と無重力のバリエーションでもってDNAを洗浄されてしまった女性を演じるLéa Seydouxの微細な感情の襞と、同様に鉄の仮面を装着したGeorge MacKayのクリーンな不気味さの衝突。彼らをあんなふうに動かしているのは、その背後にあるのは何なのか、彼らのやりとりの変なかんじがAIとヒューマンがぶつかり合うその場所を照らしだしている .. のか。

他方でDNAとかAIとか、本当にそういうレベルの話としてやるようなネタなのかしら、というのは少しだけ。もっと支離滅裂なこともできたのではないか(バグでした.. で済ませる) 。 ぜんぶ1910年の設定でよかったのにな → どうしようもない保守。

エンドクレジットはQRコードがぽん、と出て終わり。この映画全体もAIが編集したものでした、と言われても驚かない。

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