5.06.2024

[film] The Sweet East (2023)

4月27日、土曜日の昼、BFI Southbankで見ました。なんかの特集ではなく普通の新作アメリカ映画。

Safdie brothersの”Heaven Knows What”(2014)や”Good Time”(2017)、Alex Ross Perryの”Her Smell”(2018)などで撮影を担当していたSean Price Williamsの監督デビュー作。

South Carolinaの高校生Lillian (Talia Ryder)がWashington DCへの遠足の途中のピザ屋にいたところ武装した連中に襲撃され、友達とはぐれてスマホも失くしていろんな変な人たちと出会って旅をしていくロードムービー。監督の過去の撮影作品にあった匂ってきそうなくらいにリアルで透明で、そうあろうとしすぎて見たくないものまで写りこんでしまうような印影の強さはそのまま、明るく希望に満ちたものでないが、救いようのないものにもなっていない。そういうのに対する無関心、みたいのも含めてSafdie brothersのには少し似ているかも。

最初に出会うのがアート集団のようなアナーキストのような連中を率いて威勢のいいCaleb (Earl Cave - Nickの子)で、豪快で表も裏もなさそうだったが金玉のびっちりピアス - あれ本物かなあ? - を見せられてこいつはムリ、ってそっと離脱して、お腹を空かして彷徨っていると野外でやっていた極右ネオナチ団体みたいなのの集会で、地元で教師をしているというLawrence (Simon Rex)と会って、ひとり大きな邸宅でEdgar Allan Poeを信奉しつつ静かな暮らしをしている(でも極右の)彼はLillianに服と部屋を与えてずっとここにいていいから、と言う。

でも彼と集会の準備でNYに行った際、スキンヘッドの男が持ってきた極右団体の運営資金なのか大量の札束の入ったバッグを手にとんずらして、さて、となったところで映画監督のMolly (Ayo Edebiri)とプロデューサーのMatthew (Jeremy O. Harris)に声を掛けられて彼らが撮ろうとしている映画のスクリーンテストを受けてみたらふたりの大絶賛と共に採用されて、相手役となる人気俳優のIan (Jacob Elordi - “Priscilla”のElvisの彼)にも引き合わされ、撮影が始まる。

撮影が進んでスターのIanと素人Lillianが仲良くなるとパパラッチに撮られたふたりの写真がタブロイド紙にのって、それをみた極右のスキンヘッドたちが夜の撮影現場に乗りこんできて、映画さながら - コスチューム時代劇 - の襲撃の修羅場となり、LillianはスタッフのMo (Rish Shah)に助けられて彼の家の物置に匿われるのだが、厳格なイスラム教徒である彼の家では結婚しない限りこれ以上ここには置いておけない、と言われて…

こんなふうに波瀾万丈にアメリカの東側に暮らすいろんな人たちが現れて出会っては転がされの放浪を繰り返し、周りでばたばた人が死んだり見えなくなったりしていくのだが、Lillian本人はしらーっと未練もなんもない平気な顔で切り抜けていって、でもそれらは「成長」とか「学び」なんかとも「生き延びる」みたいなこととも、「出会いが人をつくる」みたいなのともちっとも関係なさそうで、どこにも帰属しなくたってへっちゃら、よくわかんないけどみんなありがと、みたいなところに留まって、べつにいいかー、っていうお話しで、映画そのものもべつにいいかー、になってしまう。

主演のTalia Ryderのすべてがどうでもいいや、の目線と態度 - 周りを動かすわけでも呪うわけでもなくただそこにいる - って80年代的な自棄 - “Vagabond” (1985) -  『冬の旅』とか - のそれに似ているようでいて、でもどこかではっきりと他者に見られている自分をSNS的に意識している - してしまう、という辺りがおもしろいかも、おもしろくない人にはただのなんだこいつ? でしかないかもだけど。


さっきAssisiから帰ってきました。1泊だけ、夕方5時に着いてから翌日朝11時に発つまでしか滞在できなかったけど、すばらしくよかった。あそこに暮らしたら美術館いらない。 来世はお願いですからここで、って聖フランチェスコさまにお願いしてきた。


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