5.01.2024

[film] Cerrar los ojos (2023)

4月21日、日曜日の午後、BFI SouthbankのVictor Erice特集 or ふつうの新作、で見ました。
英語題は”Close Your Eyes”、邦題は『瞳をとじて』。

169分、だいじょうぶだろうか?(←自分が)だったが、ぜんぜんだいじょうぶだった。 『ミツバチのささやき』(1973)~『エル・スール』(1983)~『マルメロの陽光』(1992)と、これらはどちらかというと散文詩的な形でこんな世界がある(あった)、というのを示していて、Ericeが今回のようにちゃんとした(ってなに?)ストーリーを語れる人だとは思っていなかったのだが、描かれた情景やそれらイメージの連なり以上のストーリーの転がり具合に引き込まれてしまったことにちょっと驚いたかも。

映画はいくつかのパートに分かれていて、最初はある映画の冒頭部 – 第二次大戦直後、フランスの田舎のうち棄てられたような邸宅に中国人の下男とひっそり暮らすSad King (Josep Maria Pou)が反フランコ主義者のスペイン人の男性を招いて、上海で行方不明になっている自分の娘を捜し出してここに連れてきてほしい、と依頼してその写真を渡す。(ここまで)

で、これが90年代初に、スペイン人男優Julio Arenas(José Coronado)の突然の失踪により制作が中断された映画”The Farewell Gaze”の冒頭部であることがわかり、時間は現代になって、その映画の監督をしていたMiguel (Manolo Solo)が、未解決事件を追うTVドキュメンタリー番組に出演してJulioの失踪についてわかっていること、思い当ることなどを話すべくマドリードにやってきて、倉庫からお蔵入りとなっていたあれこれを掘り起こして、当時映画の編集を担当していたMax (Mario Pardo)と会って当時の話をしたり、古本屋にあった自分の著作 – メッセージつきで献本したのが売られていた – からかつての恋人 / Julioの恋人でもあった - Lola (Soledad Villamil)と会ったり、Julioの娘のAna (Ana Torrent)と会って手がかりを探してみたりするのだが、もちろん何も出てこないし、出てくるとも思っていないぽい。どちらかというと自分の過去とか、なんで自分はこんなことをしているのか、を掘って向き合っていく作業となる。

最後のパートは放映されたTV番組を見た女性からあれは彼かも.. という知らせを受けたMiguelが彼の暮らす療養院を訪ね、間違いなく彼かもと思いつつ、いまは施設の修繕仕事をしながら過去の記憶すべてを失っている彼の扉を叩きはじめて。

身近にいた人がいなくなる、失踪することについての映画で、冒頭の映画も人探しの依頼からだし、中心となるMiguelのJulio探しもそうだし、Miguel自身が映画の世界から身を引いて半世捨て人状態だったし、Julioは自分の過去がどうだったのかを見出すことができず、そして娘のAnaにとっては – とくるとEriceの最初の2作で、娘から見た父の謎とその先にある失踪はあらかじめ用意されていたかのようだし、とにかくみんな(なにかを探しているのか忘れたいのか、事情はいろいろありつつも)どこかに失踪してしまう、それが生き(のび)るひとのふつうのありようではないか、と思えてきたり。

そしていなくなってしまった人を探す際のカギとなるのが目に訴える古い写真だったり、映画だったり、それにまつわるありかなしかの記憶の欠片だったり。記憶がそれらの映像を運んでくるのではなく、どこかに挟まれた写真や缶からに入ったフィルムから、それらの朧な記憶が引きだされて、そうしてかき集められた記憶がその人のかたち、イメージを改めて浮かびあがらせる、という順番・構図(?)。

その過程で”Close Your Eyes”という指令は(どこから?)どこにどんなふうにきいてくるのか?
この映画のポスターで、目を閉じたQiao Shuのアップの手前でMaxに映写を始めるように指示を出すMiguelのイメージが意味するところは? ひとはどうしてなにかを思いだそうとするときに目を閉じてしまうのだろうか?…など。

記憶はいっつもどこかに行ったり消えたりしてしょうもなくて、写真や映画はぼろぼろになったりしながらも、どこかに残ったり挟まったりしながら、突然発見されたりする。 古本もな.. だからよれよれと映画館に通うのだし、床に本を積んでしまうのじゃよ…

映画 -”The Farewell Gaze”をフルで見たい。絶対傑作だと思うし。実はもう作ってあるのではないか。

あと、Victor Erice本人がどこかに行ってしまいませんように。その予告となりませんように..

AnaとMiguelが会うプラド美術館のカフェ、こないだあの辺に座ってケーキを食べた。 すごく居心地のよい素敵なカフェなの。

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