5.01.2024

[theatre] Machinal

4月25日、木曜日の晩、Old Vicで見ました。

前日には”London Tide”を見ていて、演劇を2日連続で見るのは初めてかも。ライブハウスに通うようなものだと思えばいいのか(でも演劇って、高いよね。高くなるのはわかるけど)。休憩なしの1時間50分。とてつもないテンションで一気に。

1928年にNYのSing Sing刑務所で夫を殺した罪で電気椅子で処刑されたRuth Snyder (1895-1928)を主人公としたSophie Treadwellの同名戯曲(1928)を元にしたもの。ブロードウェイでの初演時の演出はArthur Hopkins、Clark Gableの初舞台もこの劇だったと。 今回の演出はRichard Jones。

主人公のモデルとなったRuth Snyderについてはこの戯曲に留まらずJames M. Cainによる小説-”Double Indemnity” (1936)~これを原作としたBilly Wilderの同名映画(1944) - 映画とはぜんぜん違うけど - とか、Guns N' Rosesのジャケットアートとか、いろんなところに登場して、近代アメリカにおける荒れた「悪女」、「ビッチ」の原型のように扱われているような。(日本だと阿部定みたいな?)

舞台は中心奥に向かって狭くなっていく三角形で、壁には神経症的な黄色がべったり、場面によって各辺に扉がついて人が出入りするが、中心人物以外は機械的かつ統制された動きと喋りに終始するロボットで、閉塞的で逃げ場のないさまをうまく表現していて、各場面は“To Business”~“At Home”~“Honeymoon”~“Maternal”~“Prohibited”~“Intimate”~“Domestic”~“The Law”~“A Machine”と刻まれたプレートが手動で上に掲げられる。(場面構成は原作通りみたい)

Young Woman (Rosie Sheehy)が地下鉄の通勤ラッシュで半死状態になりタイプライターの機械音と噂話がやかましい職場で、老いた母(Buffy Davis)とふたりきり、息の詰まる嫌味と小言しか言われない家庭で、そんな家庭から逃れるべく職場の25歳上のハゲ上司Mr. J (Tim Frances)と結婚した後の地獄のような新婚旅行で、ぜんぜん欲しくなんかない子供の出産で拷問のような思いをさせられる病院で、諸々のはけ口を求めて通うようになった闇酒場で、そこで出会った男(Pierro Niel-Mee)と親密になり、そこから振り返ってみた家庭は改めて地獄だったのでとうとうブチ切れて、魔女狩りの裁判にかけられて、みんなが見ている前で見せしめの電気椅子へと…

最初から最後までずっと、”Young Woman”にとってそこで展開されたり会話されたり付きあわされたりべたべたされたりする日々のあれこれがどれだけ虐待や拷問に近い苦痛をもたらすものであるかが、きわめてわかりやすい機械音と頭のなかにこだまするいろんな声の反響~ノイズ、ダンスのような振付(by Sarah Fahie)やSMぽいシルエットと共にえんえん表現されていって、実際の犯行はそれらの帰結でしかないのであっさりめに描かれて、刑の執行も機械の屠殺みたいに一瞬でやってしまう。 原作から100年経った今でもこれらが、彼女の痛みのありようがすんなり理解できてしまうことが何よりもやばいかも。まあ、拷問なのだからわかるか…

余裕たっぷりの白人男性目線による自家撞着〜自爆~死刑執行もの - カミュの『異邦人』(1942)のずっと前にこんなふうに晒されたものがあったのだ、と。

主演のRosie Sheehyは、花柄ゆったりめのワンピースを着てほぼすっぴん、髪も適当で、その状態でどこまでもいたぶられ、玉突きされ踊らされ、傷だらけになっていって、それでもうるせーよ、みたいな顔をしていてすごい。所謂悪女からもfemme fataleからも程遠い、どちらかというと子供の顔をしている。
(これを欧州的な静けさのなかで構成し直してみると、例えば”Jeanne Dielman…”になるのかも)

当時のアメリカで理想とされたであろう仕事を持って職場で結婚して子供を作って幸せな家庭を .. というレールに乗った黄金のコースのぜんぶ逆をいったりやったりするとこうなるのだ、というのがいったい何の戒めになるのか、なったのか。(日本なら時代遡らなくても即簡単に作れる)

彼女は何かに逆らおうとしたわけではなかったし、周囲も彼女に何かを強いたわけではなかったのだとしたら、彼女を電気椅子に導いたのはなんだったのか?  Machinalななにか? とは。

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