5.01.2024

[theatre] London Tide

4月24日、水曜日の晩、National TheatreのLyttelton Theatreで見ました。

原作はCharles Dickensの最後の(未完ではない)小説 -“Our Mutual Friend” (1864-1865) - 『互いの友』。脚色はBen Power、演出はIan Rickson、音楽はPJ Harveyがこの舞台用に13曲を書きおろしている。 休憩1回の3時間10分。

Dickensの原作は読んだことがなかったので見る前にあらすじを頭に入れておこうと思ったのだが人が多すぎて複雑すぎて諦めた。Londonの地名(Limehouse, Holborn, Lambethとか)とそこに暮らす登場人物たち(の職業など)が絡みあっている。

舞台の右手奥にドラムスとキーボード2つ。3人のバンドの演奏をバックに登場人物それぞれ(とその組合せ)がこちらに向かって歌う(歌詞はPJ HarveyとBen Powerの共作)ミュージカル的な場面もあったりする。アコギがリズムを刻んでそこに声が乗っかり、ドラムスとキーボードがどんどこ後を追っていく - 明らかに最近のPJ Harvey節なのに声(特に男声の)が彼女ではない、だけで曲の印象ががらりと変わってしまうのがおもしろい。

客席の最前列と舞台の隙間から登場人物全員が水揚げされるようにべちゃべちゃと舞台上に這いあがり、”This is a story about London, and of death and resurrection- “と歌いだすオープニング (エンディングは”London, remembered. - London, forgiven”..と)照明はずっと低め暗めで、テムズ川の水面のゆらゆらと共に絶えず揺れて落ちつかないかんじ。

ロンドンに戻ってきたところで溺死体になりすまして別の名前で生きることにしたお金持ちの(相続権をもつ)青年John Rokesmith (Tom Mothersdale)と、彼の(親が決めた)許嫁だった女性Bella Wilfer (Bella Maclean)との間に起こるあれこれ、川辺で溺死体を発見したことから怪しまれつつ亡くなった水夫の子 - Lizzie (Ami Tredrea)とCharley (Brandon Grace)の姉弟と彼らを救おうとする法律家(善いの悪いの)とのあれこれ、ふたつの恋の成り行きを軸に当時のロンドンの下層から上層まで、善人と悪人がとっかえひっかえひしめき合うさまをテムズのうねる流れ、潮の満ち引きに沿って絵巻物のように描こうとしている。原作が狙ったであろうごった煮感をうまく料理しているようであるものの、ちょっとシリアスな方に単純化しすぎて重くなっちゃったかも、というのは思った。

自分のIDを(故意に)なくしてしまった者、親が亡くなって身寄りがなくなってしまった者、助けてくれる善きひと、弱みにつけこんでくる悪いやつ、頼みもしないのにいろんな人たちが寄ってたかって湧いてきて言い争いや暴力沙汰は茶飯事で、という終わらない状態をコミカルに皮肉たっぷりに描くのがDickensの世界、であるとしたらちょっと違ったものになってしまったかも。このドラマのカップルはハッピーエンディングでよかったね - かもだけど、明日にはまたきっと別の同じようなのが、というエンドレスのせわしなさと果てのなさにドラマとして決着をつけようとしたらこうならざるを得ないのか。いっそ踏みこんでどたばたRom-comにしちゃえばおもしろくなったのに。

ただ、Dickens的な世界には行かなかったかもだが、Londonってこんなふうだよね、というのは音楽の効果もあるのだろうか、うまく表現されていた気がする。原作から160年経っているけど。 同じ都市でもイーストリバーとハドソンリバーに挟まれた(その終端には自由の女神がいる)NYとはぜんぜんちがう、うねうねとくねってどん詰まりだらけで海のようで川のようで逃がしてくれない、そこで生きるしかないあーあーと、それでも… のなにかが。

そして、Dickensというより、思っていた以上にPJ Harveyの世界、になっていたのが興味深かった(そこが、それがよかった)。 水に浸かって溺れていくイメージは”To Bring You My Love” (1995)の頃のだし、でっかい都市を描く、という点では”Stories from the City, Stories from the Sea” (2000)があるし、ヒロインの着ていた衣装は”White Chalk” (2007)のジャケットのそれだし、言葉を探しながら異郷を旅してどこまでも踏みしめつつ歩いていく、というのは詩集を含めた最近の数作でずっとやっていることだし。彼女のヴォーカルの入った”London Tide”が早くリリースされますように。

この夏にあるPJ HarveyとIvo van HoveとSandra Hüllerの演劇? プロジェクト、なんとなくチケット取ってしまってから場所がドイツであることに気づいた。しらんぞ。

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