5.20.2024

[film] La chimera (2023)

5月12日、日曜日の昼、Curzon SOHOで見ました。上映後に主演のJosh O'ConnorとのQ&Aつき。

監督は”Happy As Lazzaro” (2019)のAlice Rohrwacher。変わらず大昔と現代、夢とリアルの間を軽々と渡っていく魔法のような世界 - 幸せとか希望とかはそんなにないし、なくてよいのだが - を見せてくれる。

舞台は80年代のトスカーナの田舎のほう、無精ひげで汚れてくたびれた英国人Arthur (Josh O’Connor)が列車でうとうとしてその脳裏だか夢だかに女性の像を浮かべたりしていると車掌に起こされ、彼はどこかに帰ろうとしていて、やがて彼を迎えた連中から、彼が刑務所から出所したばかりで、元考古学者の墓荒らし~泥棒グループの一員であることがわかる。

彼は丘の上の掘っ立て小屋のような住処に戻ってから古い邸宅に暮らすFlora (Isabella Rossellini)を訪ねて、彼が彼女の娘のBeniaminaと結婚していたこと – それが冒頭の夢に出てきた女性であることがわかるのだが彼女はいない – やがて彼女が亡くなったこと、それが彼の失意と凋落の根源にあることを知るのだが、やかましい窃盗団の連中は次をやろう、ってうるさいので、先が二又の木の枝を手に地表をうろうろして、ここだ って宝のありかを告げる – どこかしら“El sur” (1983)の半分魂のぬけたパパっぽい。

Floraの歌の教え子で、彼女のところで子供のケアとメイドをしているItalia (Carol Duarte)のことが気になりだした頃、まったく新しい - 既に誰かが掘っていたりしない穴を見つけて掘ってみると、エトルリア文化の頃のすばらしい女神像が出てきて、息をのんでいたら仲間がその首をガンって切り落としちゃって(なんてことを..)こうすれば外に運び出せるし、って言う。

そうやって運び出された宝物は別の窃盗団に奪われて、そこから謎めいたSpartaco (Alba Rohrwacher)の主宰するクルーザー上の闇の美術関係者お披露目会で開陳されて…

エトルリアの頃からの文化の遺物が地面の下のどこか見えないところにあって、それを探してお金にしようとする現代の我々がいて、でもその中間で大切な人を失ったりどうでもよくなっている迷い人もいて、古代のロマンとか美なんて言ったって工場の脇に埋められたその程度のものなんだけど、でも待て.. そこにはなにかが? 一体なにが? という語りの独特さとその良いのか悪いのか見えない渦に引きこもうとする力の強さ。その全体像をキメラ – キマイラ – つぎはぎ異質同体の怪物とするのは間違っていないかも。存在自体が怪しいものだが、いったん姿を現すと強く根を張って天地を倒立させて我々を振り回し、なにをどうすればよいのか - なすすべもない。

登場人物たちはどれもみんなその所属がどこか半端で怪しくて贋物っぽくて、列車で車掌が起こした後に倒立して現れた夢かもしれなくて、でもそこにあった過去の遺物や亡くなった人たち – こっちの方が本物っぽい - を中心にみんなじたばた動きまわっていて、その状態で愛とか永続するなにかなんてどうやったらありうるのか、どうやってそこに昇ったり始めたりすることができるのだろうか? 怪物キメラはそこで何をしようというのか、って。

まったく知らない異国の、設定として今から40年くらい昔、宝物の起源まで含めたら想像もつかないくらい遠い昔のなにかもひっくるめられた彼岸の世界のことのはずなのに、なんでこんなに近くに見えたりするのか、という驚き。彼らの - 向こう側の方がこちらを呼びこもうとしているから?

トスカーナと美術、というとキアロスタミの”Copie conforme” (2010) - 『トスカーナの贋作』が思い浮かんだりするが、あれとは異なるスケールの、中心でかき回すのはキメラ - それ自体がまがいものぽくて、でもそうやってかき回され振り回されたあげくに、お手あげで委ねてしまいたくなる甘い気持ちよさ、みたいなのはあるかも。

上映後のQ&AはJosh O’Connorの他にプロデューサーの人(名前わすれた)も参加して行われた。Joshは彼の映画の登場人物そのままのつんのめった喋りをする素敵なひとで、彼は『幸福なラザロ』を見てすぐにAlice Rohrwacherに手紙を書いたくらい感動した、と。印象に残っているのは今作の主人公のコアにある”Grief”について、Nick Caveの曲 – どの曲だったかは出てこないって - と彼が語っていたGriefをどう乗り越えるか、の話がとても参考になった、と。
あと、俳優を志しているという人には、できるだけ沢山の、いろんな映画を見たほうがいい、って。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。