4.29.2024

[film] Out of the Shadows: The Films of Gene Tierney

新しめのばかりを書いている気がするが、古いのも好きなので地道に見ている。BFI Southbankの4月のもうひとつの特集がGene Tierneyの – “Out of the Shadows: The Films of Gene Tierney”で、見たことある作品も多いのだがやっぱり何度でも見たくて、月初にNYに行ったりして見逃してしまったのもあり、全11本のうち6本しか見れなかった。くやしい。
 

Laura (1944)

4月13日、土曜日の午後に見ました。

Otto Premingerによる問答無用のノワールの傑作と言われている。不可解な死をとげたLauraの聞きこみ捜査をしていくNY市警の刑事が彼女の見える顔見えない顔、その謎の部分に引き込まれて狂っているのか狂っていないのか、手もとでスマホのゲーム(今ならそう)をやっているうちに自分でもわからない穴にゆっくりと嵌っていく。夜の街で、明らかに狂ったなにかを追っていくうち、気がつけば狂っていたのは自分(たち)だった、という転換 - ノワールの黄金律みたいのがたっぷり詰まっていて、何回見てもおいしい。

 
Leave Her to Heaven (1945)

4月14日、日曜日の午後に見ました。監督はJohn M. Stahl。邦題は『哀愁の湖』、だって。

小説家のRichardと運命の出会いをした(と思いこんでしまった)Ellenがいて、亡父を盲目的に愛していた彼女は同じようにRichardも愛するのだが、つい愛しすぎて彼を独占したくて邪魔で気にくわない親族や自分の子まで端から消していって何が悪いのよ、って最後に自分まで消してしまうの。

どろどろの毒婦/愛憎劇にしようと思えばできたであろうに、そうはせず、ぜんぜん報われない愛を求めて止まない彼女のふるまいを綺麗なテクニカラーのなか壮麗に描いていて、かっこよく見えたりもする。最後の裁判シーンで露わとなるぼんくらまみれの男たちに囲われてしまったのが悲劇のー。

終わって拍手がわいた。

 
Night and the City (1950)

4月20日、土曜日の午後に見ました。邦題は『街の野獣』。

赤狩りでフランスに逃れる手前の監督 - Jules Dassinが”The Naked City”(1948)でのなんでもロケ主義をNYからLondonに持っていって、とにかく金を稼いで名をあげたい、ってイキるちんぴらをRichard Widmark が演じて、とにかくこいつがひとりで一晩中ずーっと走り回っているので、こんなのが近くに寄ってきたら誰でも消えてくれ、ってなるのではないか。Gene Tierneyはなんでこんなのを信じて一緒にいようと思うのか謎(そっちの方の謎)の役で、全体に熱すぎてノワールぼくないかも。

スケールがでかいのかせこいのかよくわかんないまま闇雲に裏道抜け道を転がっていく話で、そんなありようはなんとなくLondonぽいかも、と思った。

今なら親子プロレスラーもの”Bear Hug”としてリバイバルか、リメイクできるかも。
 

Whirlpool (1950)

4月21日、日曜日の晩に見ました。
監督はOtto Preminger、脚本にはBen Hechtの名も。邦題は『疑惑の渦巻』。

Gene Tierneyは高名な医師と結婚して幸せなはずなのにデパートで万引きをして捕まって、でもその場にいた催眠術師のJosé Ferrer に助けられ、これで彼女の弱みを握った彼は彼女に催眠術をかけて殺人容疑者の肩替わりとか証拠隠滅とか悪いことをさせたりするのだがー。

まず夫も医者なら気付けよ、って思って、でもそうはならないところがなるほどー、とか、でもやっぱり、そんな回りくどいことしないで最初から殺したかった相手に強引に催眠術かけて言うこと聞かせればよかったのでは、とか。

ここでのGene Tierneyは一貫して男たちの被害者でありながら、本当にそうなのか? 彼女は催眠状態ではなくすべてをわかってやっていたのではないか? という別の渦の方に見ているものを誘う。渦を作っていたのは誰か? とか。


The Ghost and Mrs. Muir (1947)

4月23日、火曜日の晩に見ました。
監督はJoseph L. Mankiewicz。邦題は『幽霊と未亡人』 - ちゃんと”Mrs. Muir”って名前で呼べ。

夫を亡くしたGene Tierneyがうざい姑たちから逃れるべく、一人娘(成長するとNatalie Wood)と家政婦を連れて海辺の一軒家に引越したら、格安だったそこは船長だったRex Harrisonの幽霊のいる訳あり物件だった。

が、なんとなく幽霊と話していて仲良くなってしまった彼女は船長の経験をもとに本を書いて出版社に持ち込んで、そしたらこれおもしろいって出版することになって、そこで知り合ったGeorge Sandersと婚約するとこまでいくのだが…

ふたつの世界を行き来する恋物語、というより息の長い、スケール大きめの話で、でもラストは爽やかに泣かせてくれて、こないだの”All of Us Strangers”(2023)もこれくらい攻めてほしかったかも。

海の描写がすごくよくて見ているだけで気持ちよくて、それだけで名作。


Where the Sidewalk Ends (1950)

4月27日、土曜日の午後に見ました。
監督はOtto Preminger、この脚本にもBen Hechtの名が。邦題は『歩道の終わる所』 - は車道? 獣道?

暴力的な捜査や尋問で上からうるさく言われているNYの刑事 - Dana Andrewsがいて、ギャングの賭博のいざこざに絡んだ殺人事件の捜査で、容疑者のやくざのとこに行ってそいつを殴ったらあっさり死んじゃって、隠蔽工作などをしてみるのだが、殺したやくざの妻だったGene Tierneyと会ったり彼女の父のタクシー運転手が逮捕されたのを見ていくうちに…

Dana Andrewsの同期で先に出世した奴のねちっこくやらしい推理が夜の終わらないかんじとうまくリンクしてて、こんなんじゃみんな荒れてぶん殴ってしまうかも、とか。

ぶん殴るとこがそんなに痛そうに見えなくてちょっとお上品かも、って思った。Raoul WalshとかJohn Hustonのぶん殴り方と比べてしまうと特に。


Gene Tierney、いまの女優でいうと誰かしら? ってずっと転がしてて、Léa Seydouxあたりかも、と思った。 一見愛想のよいただの美人さんのようで、実はとんでもない強さとか影 (Shadow) を抱えてて、相手を - 時には自分も含めて - 軽く道連れに、共犯者にしてしまう、そんなしなやかな強さがあって、横に並ぶ男たちを一瞬でただの愚鈍のぼんくらに見せてしまうとこ、とか。

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