12.29.2010

[film] The Threepenny Opera (1931)

月曜日、Snow Stormの翌朝、窓のむこうはおっそろしく静かで、雪の朝は大抵外で雪かきのがりがりが聞こえるものなのにこれだけ静かということはつまり、雪がひどすぎて誰もどうすることもできない、ということを意味していて、実際に外に出てみるとどうしようもなくでっかい白のどわどわがそこらじゅうを埋めていた。

これまでに遭遇したいちばんすごかったやつは96年のBlizzard(Blizzard '96と呼ばれた)で、あれほどではなかったものの、じゅうぶん楽しい。 駅までの道のりは勘と三半規管の勝負。

Grand Centralに着いても郊外からの電車が止まっているので、がらーんとだーれもいなくて、気持ちよい。

ただ朝のデニッシュが調達できなかったのがかなしい。 (前の晩からろくなもん食べてなくてさー)

・JoeにおいてあるDoughnut PlantのJelly filled donut.
・FinancierのAlmond Croissant.
・dishesにおいてあるBalthazarのWhole Wheat Croissant.

この三つのどれかひとつでよかったのに、みごとに全滅だったので、もうそのまま帰ろうかとおもった。

オフィスも3割くらいしかひとがいないし、だんだんなにやってんじゃろ状態になってきたので、4時くらいに抜けてそのままMOMAに行きました。


ワイマール映画特集の”The Threepenny Opera” - "Die 3 Groschen-Oper" - 『三文オペラ』ですね。

誰でもしってるブレヒト=ワイルによる演劇の、オリジナルの舞台から3年後に実現した映画化。
でも映画化にあたってはブレヒトと製作側で相当ごたごたがあって訴訟にまで発展した。 
のでブレヒトはこの映画を嫌っていた。

そのへんの細かい経緯は、例えばこちら

でも、ブレヒトの戯曲だってJohn Gayの"Beggar's Opera" (1728)をベースにしているわけだし、これは、ここは、G. W. Pabstの映画作品として、貧富や階級格差や官民癒着やその他社会の毒だの菌だの糞だのを音楽と共に吹きまくる当時の「有害表現」として、しっかりと見ておく必要があるとおもったの。

実際にこの映画はナチスによってオリジナルネガも含めて破棄処分にあって、修復が完了したのは60年代。

まったくブレヒトの手から離れている、というわけでは勿論なくて、音楽はKurt Weillのものだし、オリジナルの舞台に出ていた俳優もふたり参加している。  そしてあの時代の空気だの意識だのみたいなものも、当然共有されているはず。

映画としてみたときは、娼館とか隠れ家とかの屋内の描写と、ロンドンのいりくんだ路地、すべての屋根が繋がっているかんじ、その下でひしめく乞食とかいろんな人たち、そしてクライマックスの乞食のデモ行列とQueenの馬車が睨みあうとことか、すばらしいとしか言いようがないところがいっぱいあった。

登場人物に関していうと、MacheathとかPollyとかPeachumとかJennyとか、それぞれが強烈なキャラをもって暴れまわるというよりは、すべてが同じ世界のそこここにいて、それぞれの(ギャングの、女衆の、乞食の、密告者の)層をそれぞれのファミリーを代表する顔、として現れて、そういう動きをするように撮られている。

そうやっているからこそ、ラストの糞も味噌もいっしょ、というか、豚はやっぱし豚、みたいなとこがよりはっきりと出てきて、「あ~あ」というため息と共にポケットの中に握り拳をつくることができるのであった。

Kurt Weillの音楽もやっぱしすばらしい。 画面の陰影、歌うひとの表情にみごとにはまる恨み節とか艶歌とか。でも湿ってなくて豊かに上り下がりして。 
"Mack the Knife"って、ほんとに名曲だとおもうわ。

あと、オリジナルはここまでどんよりと暗く、いかがわしく、毒々しいのに、戦後以降はごく普通のミュージカルになっちゃったのかなあ、と最近の日本の舞台のキャストとかをみておもった(なんだあれ)。 
これじゃあどす黒いどっかの都知事なんかには勝てないよねえ。

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