4月10日、木曜日の夕方、シネマヴェーラの成瀬特集で見ました。
日々のリハビリというかエクササイズで通っているのだが、まだボディに塞がってくれない穴があるし痛いし、でもずっとごろごろしているのもよくないと思うし、なんか難しいことだ。
まずカラーだったのでびっくりした。成瀬作品として初のTOHO Scopeによるカラー作品。原作は農村に関する小説や著作を遺した和田傳、脚本は橋本忍、同時上映は『おトラさんの公休日』 - なんかおもしろそう。 成瀬作品のタイトルとしては、『稲妻』 (1952)、『浮雲』 (1955)、『驟雨』 (1956)、『乱れ雲』 (1967)などに並ぶ気象シリーズ(全体に影響を及ぼすどうすることもできない現象に近い何か、及びその予兆?)としてよいのか。
戦後、農地改革後の神奈川の方の農村で八重(淡島千景)が新聞記者大川(木村功)のインタビューを受けているのが冒頭で、これからの農家や家、女性/嫁のありかたについて、自分の言葉で澱みなく語り、その様子に感銘を受けた大川と八重はちょっといいかんじになり、その後はひたすら地面に向かっていく農作業も含めたどろどろの、綺麗ゴトもくそもない実情が並べられていく。
八重の夫は戦争で亡くなっていて一人息子を育てつつ姑ヒデ(飯田蝶子)の面倒を見ていて、本家の方では八重の兄・和助(中村鴈治郎)の長男、初治(小林桂樹)の縁談が立ちあがり、その嫁候補として名の挙がったみち子(司葉子)に会いに大川とふたりでその農村に赴いたらなんかよいかんじになって一晩を共にしてしまい、みち子の継母、とよ(杉村春子)は和助に追い出された最初の妻だったことがわかり、どんな勝手な酷い目にあわされたのかがわかるのだが、この家に嫁がせるんだーとか、この辺、少し複雑でこんがらがっててくらくらする。(外国の人からしたら??になるよ)
他には分家の娘の高校生浜子(水野久美)が大学に行きたいと言ったら、婿貰うしかないお前が大学に行ってどうする? って和助に一喝却下されて、でも彼女は駅前に部屋を借りて出て行った本家次男で銀行勤めの信次(太刀川洋一)と仲良くなって妊娠したり、和助が初治とみち子の式の費用をどうにかしたい、けど田んぼは売りたくない、でフリーズしたりとか。本家ファースト、家中心で問答無用の和助のこれまでのやり方と、それが経済的にも成り立たなくなったから家を出て独立するよ、の子供勢の間で建前と恥と本音が炸裂して誰にとってもどうにもならない状態になっていく。
ここに出てくる全員がそれぞれのバージョンで不幸になる予兆しか見えなくて、描かれる恋模様だって親たちが決めた初治とみち子のあれに(無邪気で幸せそうだけど)恋はないし、八重と大川のも浜子と信次のも許されない系のでどんよりしている。のだが、そんな彼らが部屋の暗がりでよりそう絵のなんと艶かしく美しいことか。
これが近代化がもたらした災厄なのだ、っていうのは簡単だけどその根は代々意識の隅々にまで浸透しちゃっている(とみんな思い込んでいる)し、いまの夫婦別姓に反対しているのもこの勢力だし、いまの地方の過疎化だって制度・政策的なもの以上にイエの延長としてのムラ意識の充溢だと思うし、鴈治郎が黙れば済む話ではないの。
なんか全体としてはチェーホフのやりきれないかんじに溢れていたような。
それにしても中村鴈治郎 (2代目)、すごいよね。『浮草』 (1959)でも『小早川家の秋』 (1961)でも、いやらしくてくたばらない嫌なじじいの典型をやらせたら右に出るものなしで、しかもその裏に弱さ辛さ優しさも滲ませて … 騙されちゃいかんー、なのに。
今回の成瀬はここまで。
もうじきNYのMetrographでもレトロスペクティヴがあるのね。
わたしが成瀬に出会ったのは2005年のFilm Forumでの特集だったなー。ロンドンにも回ってきますように。
4.11.2025
[film] 鰯雲 (1958)
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