3.14.2025

[theatre] The Seagull

3月7日、金曜日の晩、Barbican Theatreで見ました。

4月に戻ってくるまでに終わっちゃう演劇のなかで、これは特に見たかったのだがチケットが高くてどうしよう... だったのを飛び降りて取ってしまった。

この週2本目のチェーホフ劇。昨年からだと5月にDonmar Warehouseで”The Cherry Orchard”、2023年9月にAndrew Scottの“Vanya”を見たので四大戯曲ぜんぶライブで見たことになる。でもまだまだ。

脚色はThomas OstermeierとDuncan Macmillanの共同、演出はThomas Ostermeier。休憩1回の全3時間。

舞台の真ん中に背の高いトウモロコシだか葦だかの草が”Interstellar” (2014)とか”Signs” (2002)みたいに壁のように植わっていて、登場人物たちはその叢の向こうから現れる。叢の前にはビーチのようなてきとーなデッキチェアがいくつか。ステージ中央から客席の真ん中くらいまで花道のような通路が延びていて、マイクスタンドが3箇所くらいに置いてある。 設定は現代、だけど田舎。

最初に作業着姿のSimon Medvedenko (Zachary Hart)が小型の4輪トラクターのような乗り物ですーっと軽快に現れて、おもむろにテレキャスターを手にしてアンプに繋ぎ、「チェーホフやるんだってな?」なんて言いながらBilly Braggの“The Milkman of Human Kindness”をじゃかじゃか歌いだしたのでおいおい、って。合間合間に彼はこうして現れてBilly Braggもあと2曲くらいやる(なかなかうまい)。 Billy Braggにチェーホフ… ありかも。 音楽ではもうひとつ、The Stranglersの”Golden Brown”のあのシンセのひょこひょこがところどころで。

そこからMarsha (Tanya Reynolds)と彼の寸劇のようなやりとりのあと、Irina Arkádina (Cate Blanchett)が現れると、彼女のテンションとオーラが舞台のすべてを支配してしまう。

誰もが認める大女優でスターで、声も態度もでかくて誰も逆らえない、そんな彼女の周りによれよれ死にそうな兄のSorin (Jason Watkins)とか彼女に引き摺られている有名作家のAlexander Trigorin (Tom Burke)とか、壊れそうなくらいナイーブな作家志望の息子 – というよりそこらの宅録少年みたいなKonstantin (Kodi Smit-McPhee)、彼が思いを寄せる女優志望のNina (Emma Corrin)などが現れて、みんながいる前でKonstantin自作の詩劇みたいのが披露される.. がデバイスを装着して没入させてくれるはずのそれは自滅に近い大惨事で終わって、演劇界の先輩として偉そうにコメントしたつもりのIrinaは深く息子を傷つけて、母子だけでなくNinaとの間にも溝を作ってしまい …

一連の出来事が連鎖したりドライブしていく、というよりは、ひと夏、湖畔のどこかに集まって退屈でうんざりしている金持ちセレブの一族が織りなすアンサンブルで、若者たちを除けば誰も痛みや悩みを抱えていない – というかなんも抱えていない、抱える心配もなく心身腐っていくだけの大人たちと、その反対側で煩悩にまみれてひっそり殻を閉じていく若者たちのギャップ – 簡単に剥製にされてしまうカモメなど - が叢を挟んで見え隠れしていくドラマで、なにか大声でみんなに伝えたい事が出てきたひとはマイクスタンドのとこに行ってわめくとか、でも全体としては豪華なだけであまりすっきりしないコメディとしてフェードアウトしそうになったところに銃声が。

いろんな人たち、都会のどこかで会ったことがありそうな人たちが、田舎でうだうだしつつ例えば演劇を、例えば文学を語る、そこにどんな意味があるのか? そんなことしてなんになるのか? という近代における根源的かつ致命的な問い、をMarvel Cinematic Universeに出てくる超人たちがライブで仰々しく問いかけてくる。

キャストでCate BlanchettとTom Burkeは当然知っていたが、この劇は若者たちがみんなよくて、黒づくめにメガネのゴス– Marsha役のTanya Reynolds、Kodi Smit-McPhee、Emma Corrin、みんなX-Menの新キャラとして出れそうな危ういエッジが、と思ったら既にこいつらみんな。

ジャンプスーツとか、ジャンプスーツの上からビキニとか、ファッションでも大阪のオバハンふうに大暴れしてくれるCate Blanchettは言うまでもなく、ぼさぼさの無精ひげで外見がチェーホフそのものに見えてしまうTom Burkeの威圧感もすばらし – 映画 - “The Souvenir” (2019)で彼が演じた作家キャラにも通じる、そこにいて見つめるだけで誰かを蝕んでしまう毒男。 3mくらい先で身悶えするCate Blanchettを見れたのでそれだけでいいわ。


2018年のMichael Mayerによる映画版も思い出した。IrinaがAnnette Bening、KonstantinがBilly Howle、NinaがSaoirse Ronan、MarshaがElisabeth Mossで、キャスティングは悪くなかったのだが、なんか弱かったかなー。

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