11月3日、日曜日の昼、Picturehouse Centralで見ました。
今年のLondon Film Festival のオープニングを飾ったSteve McQueen (作・監督)の新作。
“Blitz”とは第二次大戦中のドイツ空軍による英国本土への空襲 - 1940〜41年にかけて約8ヶ月間続いた - のことだそう。
冒頭、淡い日の射す部屋で生猫を横に置いてピアノを弾くPaul Wellerがいて、それだけでなんか.. "Shout to the Top!" (1984)のシングルの裏ジャケットで(たしか)髪をオールバックにしていた彼の40年間/後がなんのごまかしもなくそのままそこにあって、彼は”Grampa”と呼ばれていて.. ここだけでも見て。
主人公は彼の娘のRita (Saoirse Ronan)と孫のGeorge (Elliott Heffernan)で、Georgeだけ髪の毛と肌の色が違うのだが、その辺の事情はまだ明かされない。やがて空襲警報が鳴って、3人+猫は近くの地下鉄の駅 - Stepney Greenに向かうのだが、入り口にはシャッターが下ろされていて - これは今でもOxford Circusの駅とかでやってるよね - 中に入ることができず、市民がふざけんな、って殺到してどうにか開けさせて逃れる(当初、駅を避難場所にするな、と命じていたのは政府だって…)。 でもずっとこんな状態の繰り返しなので、RitaはGeorgeを疎開させることにして駅まで見送っていくのだが、彼はむくれて手を振るママに口をきかなくなり、列車がでてしばらく経ってからひとり飛び降りて、そこから反対方面に向かう列車に飛び乗って、ロンドンを - 母と祖父のいる家を目指す。
ストーリーはシンプルで、戦争〜空襲の混乱で引き離されてしまった母子がなんとか再会すべくいろんな人たちと出会ったり身の凍るような恐ろしい思いをしたりしながらサバイブしていく、というもので、どちらかというとGeorgeの目線で描かれていくことからも結末がどうなるかは見えているのだが、再会できてよかったねえ、というだけの話ではなくて、混血の少年の目から見た戦争 - 空襲にあう、というのがどういうことなのか、が極めて具体的に描かれている。最終的に戦争には勝利したが、その過程でGeorgeが経験したあれこれは現在の英国の意識無意識に根を張ったまま残っているのではないか。
“Occupied City” (2023)で戦争を挟んだオランダの町の変わりようをドキュメンタリーとして描き、”Small Axe” (2020)のミニシリーズで時代の変わり目にあった英国の移民や有色人種の苦難や絆をドラマとして描いたSteve McQueenにとって、これもどうしても描きたかったテーマだったのだと思う。70年代の子供だった頃に、彼が周囲の大人たちから聞いた戦時中の話。 戦争のありようがどう人や町を変えたのか、だけでなく、(それは人が引き起こすものだ、という認識に立って)戦争を通して人 - 例えば市民として変わったもの、変わらなかったものはなんなのか? を掘りさげる。この映画で英国の勝利は最後まで描かれることはない。 日本人の美徳を語りたがる人達が敗戦に触れようとしないのと同じように - 方向は真逆だけど。
ロンドンを彷徨うGeorgeは迷子として警察の世話になったり、壊された商店や遺体から金目のものを盗んでまわる盗賊団に使われたり、Ritaは女性を中心とした弾薬工場で仲間たちと働きつつ、行方のわかっていないGeorgeの父と出会った頃のことを振り返ったり。そして最後に描かれるシェルターだった地下鉄の駅が爆撃により浸水する事故は1940年、実際に起こったことだそう - ものすごく怖い。
印象に残ったのは、Georgeがよい警官 Ife (Benjamin Clémentine) - 彼も移民 - に連れられて沢山の人々が避難しているシェルターに入ったとき、隣のインド人家族との間にシーツで壁を作ろうとする家族に対し、Ifeが、そんなことをしたら我々はヒトラーと同じになってしまう、そうじゃないやり方で一緒にやっていけることを示さないといけないんじゃないか? って。その通りだよ、って泣きたくなった。
一瞬、街角でお説教をしているひょろっとした人が映り、ひょっとしてあの方は… と思ったらLinton Kwesi Johnsonだった。
この戦争が終わり、50年代になるとジャマイカ等から移民がやってきてダブやパンクの基層となるコミュニティやマナーが作られていく。全て連なり繋がっている一連のことなのだ、と。80年代初のUKの音楽に触れて、これは正しいなにかだ、と直感した人々は見てほしい。
ラスト、The Style Councilの”Walls Come Tumbling Down”(1985)でも流れないかしら、と思ったが、ちょっとしゃれにならないのだった…
11.11.2024
[film] Blitz (2024)
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。