11月2日、土曜日の昼、”Anora”の前にCurzon Bloomsburyで見ました。
原作は“The Quiet Girl” (2022) - 『コット、はじまりの夏』の元となった短編”Foster" (2007)を書き、本作の原作『ほんのささやかなこと』(2021)も邦訳されているアイルランドのClaire Keegan。監督はTim Mielants、主演のCillian Murphyがプロデューサーも務めている。今年のベルリン映画祭でプレミアされた。
クリスマスに向かう1985年のアイルランドのNew Rossという町でBill (Cillian Murphy)は自営の石炭運送業をしていて、自分で小さなトラックを運転し、暗くなるまで働いて真っ黒になった手を石鹸で擦って - 手のクローズアップ - 洗って、妻のEileen (Eileen Walsh)や3人か4人いる娘たちに囲まれていて、それだけだと幸せそうに見えないこともないのだが、クリスマス前なのにずっと浮かない顔で笑顔がなく、窓の外ばかり眺めている。
夕暮れ時の町を車で走っていて、ひとりで棒を拾っている少年を見かけて、心配になって車を停めて声をかけたり - 少年の方がびっくりして怯えたようになったり、子供の頃、突然倒れてそのまま亡くなってしまった母のことが脳裏に浮かんで苦しくなったり、所謂midlife crisis的な何かなのかも知れないが、辛い思いをしている人たちの反対側で、自分はこんなふうに日々を過ごしていってよいのか? の問いに目の前を塞がれて動けなくなる - とてもよくわかる。
ある日、配達先の教会の隅でぐったりしている少女を見かけて、なんとか助けてあげた彼女の名は自分の母と同じSarahで、それもあったのか気になって次に行った時も教会関係者に聞いてみると奥から責任者らしいシスター(Emily Watson)が現れて問題はないし教会としてきちんとケアするのでお引き取りくださいと言われるのだが…
これがアイルランドで実際にあった - 18世紀から続けられてきたMagdalene laundriesというカトリック教会による少女たちへの組織的かつ継続的な虐待と隠蔽 - 2013年に政府が正式に謝罪 - を描いていたことを最後の字幕で知る。
というわけなので画面は最後までどんより曇って湿って暗くて、主人公は笑わずほぼ喋らず、これがCillian Murphyが”Oppenheimer” (2023)でオスカーを受賞した後の第一作と聞くと(あまりに地味すぎるので)感心してしまうのだが、どうしてもこれを作りたかったのだ、という彼の熱、というかもどかしさのようなものは伝わってくる。過去の事件に対してだけではない、世界中にまだいるであろう言葉を発することができない状態で苦しんでいる彼ら子供たちをどうにかしなければ、という思いは。 そして、この辺のもどかしさや悲嘆を演技に落としてこちら側を引き摺りこむCillian Murphyのすばらしさ。
これもまた”The Quiet Girl”の話ではあるが、こちらははっきりと虐待され隔離されて声を出せない状態にあった少女たちの話で、こんな”Small Things”を重ねていくしかない、というやりきれなさはある。あのバカのせいで腐った男どもが噴きあがっているようだが、そんなの全無視で、彼女たちの声を聞き取れるように耳をたてておきたい。
あとはEmily Watson。登場するシーン、姿が見えなくても声だけで彼女の声はそれとわかって、その声が法衣を着た彼女の姿に重ねられたとき、そこにある仮面の笑みの恐ろしさときたらそこらの尼ホラーが軽く吹っ飛ぶくらいの強さで、健在だわ… って。
11.11.2024
[film] Small Things Like These (2024)
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