9.03.2020

[film] She Dies Tomorrow (2020)

 8月29日、土曜日の晩、Curzon Home Cinemaで見ました。RSD2020で朝からぐったりの状態で見るにはなかなかのやつだった。

新しい家を買って越してきたばかりのAmy (Kate Lyn Sheil)は突然「自分は明日死ぬ」、という考えに取りつかれてしまう。なぜ?も、明日のいつ?も、どうやって?もない。自殺なのか殺されるのか病気になるのかわからないけど、死ぬんだわ、って。 考え出すとこびりついて止まらなくなって床に転がったりオンラインで骨壺を眺めたり変なことを始めて、そこに友人のアーティストの Jame (Jane Adams)が来て、どうしたの? って心配するのだが、その「自分は明日死ぬ」は彼女にも伝染して、それがやがて彼女の家族にも伝染していって..   画面の上では人物の背後で青と赤の光が点滅するとそういうことになるみたいなのだが、それが仮に伝染病のようなものだとして、そのウィルスがどこから来て何をもたらしてパンデミックになるのを防ぐにはどうすればー、みたいな方向には行かない。明日死ぬのは社会ではなく自分なので、それが全てでそこで閉じていいし社会なんて心配している暇ないし。そんなふうに閉じた、明日死ぬことになってしまった人から見た半径30mくらいの世界のありようを描く。ホラー? とはちょっと違うかも。

人それぞれに抱えている闇も地獄も個別だしわかりようがないし、その内面や事情をくどくど並べるようなことはしない - 過去のフラッシュバックのようなものが示されるのみ – なのだが、そういう観念が地面に根を張って身動きがとれなくなってしまう感じ、その金縛り感 – 金縛りになっていない人にはわからないし伝えようがない遠さ – は怖いくらいわかる。 ただの鬱なんじゃないの、って言うひとは言うのだろうが違うの。そう言って解決することなら簡単なの鬱じゃなくて死ぬんだから、って。 誰のせいであろうがひとはいつか死ぬ、これは本当のことで避けようがなくて、そこに「明日」が入ることになっただけ、でこれだけの段差ができて風景が違ってみえる。

突然やってくる奇行や死、というと”Melancholia” (2011)があるし、もう少し事件の方に寄っていくと”CURE” (1997)があるけど、これは現代のソーシャルなあれこれを丸ごと頭のなかに抱えこんでしまった果てに現れた最新版で、その乾いたような湿ったような質感も含めてAmyのお話しであり我々のお話しにもなっている(うつるし)ところがすごいと思った。

そして、これが”I Die”ではなく”She Dies”の三人称になっているということ。

映画作家のJames Benning(電車映画のひと)が出ているのね。


Sun Don't Shine (2012)

1日、火曜日の晩、MUBIで見ました。↑の”She Dies Tomorrow”のAmy Seimetz監督(原作も)の長編デビュー作。 こちらもすばらしい。彼女、”Pet Sematary” (2019)とかに出ている女優さんなんだけど。2012年のSXSW Film FestivalでChicken & Egg Emergent Narrative Woman Director Awardていうのを受賞している。

車の脇でCrystal (Kate Lyn Sheil)とLeo (Kentucker Audley)が車に乗れよ乗らないわで接近戦の喧嘩をしていて、ふたりがどういう人でどういう関係にあるのか、なにが起こってここまで来て喧嘩しているのかは全くわからない。ただ状況は切迫していてどうしてもその車に乗って向かわなければいけないところがあるとLeoは苛立って焦っていて、Crystalはあれこれ納得していない。

そうやってフロリダの方にぐさぐさロードムービーをしていく様子 - トランクの荷物があるので警察とかにマークされたらやばい - と、目的地に着いてからもその荷物とLeoが頼っていった人を巡って懲りずに続くすったもんだと、そうやって明らかになっていく顛末のおおよそ。でもなんでそうなっちゃったのかとか、他にやりようはなかったのかとか、それが正しい方向なのか、等については言及しない。 CrystalがLeoに、更にその向こう側の世界に向ける眼差し - 怒り、失望、絶望、諦念、空っぽさ、少しだけ希望、幼い頃の記憶、それらが彼女の中にどう滞留して流れて溢れてぐるぐる堂々巡りしていくのかを刻々と追っていく。彼女をこの状態になるまで運んできたすべてのことに対する言いようのない眼差しを。

この点で状況は全く異なっているとは言え、Crystalが「自分は明日死ぬ」と言い出してしまうことにそんな違和感はなくて、そういう状態に囚われてしまった女性の宇宙を正面から描く、という点ではAmy Seimetzの視点は一貫している。
この状態を夫婦とか家族という地点から刻々と追っていったのが”A Woman Under the Influence” (1974) とは言えないだろうか。いまもう一度見直してみたい作品。

“She Dies Tomorrow”のAmyもこの作品のCrystalも演じているのはKate Lyn Sheilさんで、彼女もすごいったらない。Leo役のKentucker Audleyさんも“She Dies Tomorrow”に少し出てくるの。


ここのところどんよりの重い(低いというより重い)気圧の日々が続いていて、そんななか、こないだのRSDで買ってきた“The Kink Kronikles” (1972)がよすぎて泣いている。The Kinksってこの気圧のなかでずっと聴かれてきたんだな、って。 ものすごくよいのだが、なんかおかしいと思ったら、こいつら、1枚目にSide1と4が、2枚目にSide2と3が入っている。これってわざとなのかしら?

もういっこ、RSDで売り切れ、ってあっさり言われてショックだったKirsty MacCollの”B-Sides 1988-1989”、初日の晩にオンラインでなんとかGetして今日やっと届いた。ぜんぶ聴いたことあるやつだったけど、通して聴くとどこがB面やねん、のすばらしさ。

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