9.09.2020

[film] Les Misérables (2019)

 4日、金曜日の夕方、BFI Southbankで見ました。わたしにとってはホームグラウンドというか学校というか塾というか、そういう場所なので嬉しいな、しかない。

入り口はシアターに直結した搬入口みたいなところから係員のひとに名前告げて入れて貰って、食べもの飲みものもOKだけど、買ってくるにはぐるっと回る必要があって相当不便で、上映中も基本はマスク着用で、いろいろやりにくいけど、嫌なら来なきゃよいだけ。あと椅子は並んだふたつ分を潰しているので相当ゆったり見やすくなっていて、そこはとてもよい。

この日が英国の公開初日で、あさってから4Kリストアでリバイバル公開される”La Haine” (1995)を中心とした“Redefining Rebellion”という特集のなかに置かれた1本でもある。 2019年のカンヌで審査員賞を、セザールでも作品賞他いろいろ獲っていて、こういう時節にはタイムリーな1本。

冒頭、2018年のワールドカップで「フランス」の勝利に湧きあがるパリの街が活写されて - 最初はこのスチールを見て暴動なのかと思った – この沸騰した情景を念頭に舞台はパリ郊外のMontfermeilに移る。低所得者層が暮らす団地が並ぶ一帯の警備ユニットにStéphane (Damien Bonnard)が配属されてくる。新人ではなく妻の仕事の事情でここに来た彼は、Chris (Alexis Manenti)とGwada (Djibril Zonga)と一緒に組んでこの一帯を車で回りながら、主に白人のChris の言葉 - 相当差別的でヘイトに満ちた - で一帯の勢力関係や人種、宗教の構成や札付きや重要人物を教わり、バス停の女子学生達にいちゃもんつけたり、見るからに荒れて廃れている、というよりも警察も含めた力による緊張関係がかろうじてそのバランスを保っているコミュニティのありようをStéphaneの目を通して我々も見ていく。

やがてサーカスのライオンの子(かわいい。ほしい)が盗まれたことからふたつの勢力が一触即発状態になり、ChrisがこういうのはそのうちInstagramに出てくるはず、と掘っているとやはり出てきて、その写真をあげていた子供- Issaを捕まえようとしたら一帯にいたガキ共と小競り合いになり、その混乱の中、Gwadaは誤ってIssaの顔を撃ってしまう。更に悪いことにそれが上空からドローンで撮影されていることがわかり、この様子が公開されたら俺たちは終わりだからドローンの持ち主を探せ、ってChrisは顔色を変えて、でもStéphaneはそんなことよりIssaの手当ての方が先だろ、ってチームの二人と対立して。

この後に一連の出来事を収束させる - 暴動に発展させない、変な方に飛び火しないようにする - ためにいろんな「関係者」と話したり脅したり駆け引きしたりの息を呑むぎりぎりのやりとりがあって、でもみんなChrisのやり方には頭きているし「ここでは俺が法だ」というChrisはぜったい謝らないし、Issaは傷ついて、ここで生まれ育ったGwadaもぐったりして泣いちゃって、あーあ、の一日が終わる。

で、ここで終わると思ったらそうではなくて、翌日パトロールの途中で待ち伏せしていたガキ共(含. Issa)が… ここは2008年に起こった実際の事件をベースにしているそうなのだが、ものすごく怖い。暴力がエスカレートして歯止めが効かなくなって無闇矢鱈に目の前にいる奴に襲いかかるをだけになっていく、煙の中でその視野が失われていくかんじが。

終盤の緩急のつけかたと途切れない緊張の糸が幾重にも巻かれていく様は確かにすごいかも。終わってややぐったりした。

で、最後にVictor Hugoの"Les Misérables"からの一節 - "Remember this, my friends: there are no  such things as badplants or bad men. There are only bad cultivators."が字幕で出る。のだがここは賛否あるかも。だって、bad cultivatorsがなんなのか、それがどこから来ているのか今はみんな知っているのだからそこを突くべきだし、ここの、あの場面に19世紀の小説の言葉を持ってくることで、これって大昔からそういうもんなのよね、って受容されてしまうだけだし。(おそらく冒頭のフランス国旗の場面との対照なのだろうが)

そして同様に、たぶん誰もがBLMを例に出して、警察起因の暴力はこんなふうな事態を招いてしまうから(→ BLMこわい)、と印象レベルでわーわー言うことだろう(特に日本の嫌BLMの人々 – あの人たちなんなの?)。BLMは原理原則の話だから間違えないでね。暴力はなんであれ誰のであれ、絶対だめなのよ。

ところでフランスの団地が出てくる映画って怖いのが多い気がする。 "De bruit et de fureur" (1988)   - Sound and Fury とか、怖い映画ではないけど "Girlhood" (2014)とかの殺伐としたかんじとか。日本の団地だって怖くて映画を知らないだけなのだろうけど、今回のは怖かった。

ドローンで撮った映像がいくつか効果的に使われていて、これってこれまでの空撮とクレーンによる撮影の中間くらい - 神の目鳥の目よりもう少しローで、でも高解像度のいろんな目を提供してくれて、犯罪パニック映画とかで使いようはいっぱいありそう。

(今は無理だけど)観光でやってきた人に「レ・ミゼラブル」を見せてあげる、ってこの映画に連れてきたら怒るかなあ、やっぱり…
 

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