8月31日、三連休月曜日の昼間、米国のMUBIで見ました。
ずうっと前の8月15日に米国MUBI Libraryの“1970s Masterpieces”ていうカテゴリーの中に“Noroît” (1976)が有料 - $2.99 - であるのを見つけて見て、これが”Duelle”も入れた四部作の一部であることを知ってそっちも見たいなーと思ったらこっちもやはり米国MUBIのなかにあった。なんで英国MUBIにはないのかは不明。 Rivetteが”Out 1, noli me tangere” (1971)の後にどんなものを撮ったのかを知りたくて。
Jacques Rivetteがネルヴァルの『火の娘たち』から構想した四部作 - ラブストーリー/ファンタジー/西部劇/ミュージカル – のうち、実現した第二部が”Duelle”、第三部が”Noroît”。
冒頭、パリの夜、Lucie (Hermine Karagheuz)が兄のPierrot (Jean Babilée)とサーカスの玉乗りで遊んでいて(ここに全てが)、その後、ホテルに勤めるLucieのところに謎めいたLeni (Juliet Berto)が訪ねてきてMax Christieという男を探してほしい、と依頼する。戸惑いながらも探し始めたLucieの先で殺しが起こり、Max Christieも死んでて、依頼人が探しているのはこれも怪しげな石 – “Fairy Godmother”で、同様にそれを探しているViva (Bulle Ogier)がどこからか現れて、Leniは月の精で、Vivaは太陽の精で、“Fairy Godmother”があるとより長く地球に滞在できるから決闘する運命にあるのだと。
謎の石がどちらか一方の手に渡ってしまうと世界が破滅する.. がんばれLucie!というAvengersみたいなでっかい話ではなく - 月がどーんと出たりするけど - どちらの精も自分たちがより長く滞在したいからというちんぴらヤクザみたいな動機から夜のパリに出没して人を殺したり追っかけたり睨み合ったりしている。なんで警察や私立探偵がちっとも出てこないのか。ノワールじゃないのか。
これをファンタジーにしているのは太古からあった(と思われる)昼と夜のせめぎ合いの謎の物語を夜のパリのダンスホールとかメトロとか公園とかの自分たちの領土を駆け抜けながら解きほぐしていって、最後にその物語が前面に出てくる – そしてここで閉じて終わるものではない – そういう物語のありようで、この点は”Out 1”でColinが”The 13”の謎を追っかけながらも最後までその正体(顔)が明らかにならなかったのとは対照的かも。そして街は神話だろうが秘密結社だろうが、喜劇だろうが悲劇だろうが、そんなふうに見えるもの見えないもののせめぎ合いの中で明らかにされることを常に待っているのだ – というようなことが”Jacques Rivette - Le veilleur” (1994)では語られていたような。
夜のパリにそれぞれぎんぎんの恰好で現れて向き合うLeniとViva、それだけでかっこよくてわーってなる、その前段にはダンスホールがあって、世界の大抵のことはこのフロアの上のダンスと音楽と一緒に起こって、そこでは常にJean Weinerが弾きまくるピアノががんがんに鳴っている。
これと従姉妹のようになっている映画だと思ったのがÉric Rohmerの”Les nuits de la pleine lune” (1984) - 『満月の夜』で、Vivaの娘 - Pascale Ogier - が満月に借りを返しにやってくるの。
Noroît (Une vengeance) (1976)
元の四部作構想からすると三つめの「西部劇」にあたるのだが、フランスには荒野もないしインディアンもいないので海と海賊のお話しになった(のかしら?)。
こちらは緩めの原作があって17世紀の英国の劇作家Thomas Middletonの ”The Revenger's Tragedy”(未読) – この作品、Alex Coxが2002年に同タイトルで映画化しているのね(未見)。
タイトルは風が吹いてくる方角 - nord-ouest - north-westだという。西部劇 – Western よりやや北の方に傾く。
冒頭、海辺でMorag (Geraldine Chaplin)が弟の亡骸を傍らに泣いていて、海賊の首領のGiulia (Bernadette Lafont) に復讐すべく、側近のErika (Kika Markham)をGiuliaの元に送りこんで暗殺の機会を探る。 財宝の話も少しは出てくるけど、ここの中心テーマは復讐で、最終的に組織の天辺をやっつけるために手元で殺った殺られたを繰り返し、目の前に広がるのは海ばかりだというのに、捜索や追跡といった威勢のよい冒険とかJohnny Deppとかはぜんぜんなくて、海を背にして孤立したふたつの勢力がじりじりと策謀と騙しの室内劇を繰り広げていく。それもあって時折映しだされるばーんとした海の描写がかっこいい。
ここでは稽古場のような場所でのやりとりが - 特に終盤は - 中心になって、器楽アンサンブルが延々と演奏していくなか、緊迫した会話と仮面舞踏会での型にはまったようなアクションが続くところは”Out 1”でのリハーサル風景を思わせる。更にクライマックスのところではフィルムの粒度とトーンが変わって(16mm ? 赤白)途端に実験映画ぽくなって、はったりめいた雰囲気も含めたそのアブストラクトなかんじは悪くない。いろんな念で膨れあがったエモの反対側で、でも結局はみんな風に吹かれて海の藻屑、みたいに儚いありようがよく出ていて、ここは ”Duelle”のファンタジーの永続性とはきれいな対照関係にあるかのよう。
ここで描かれた彼らの砦は時間を経て”Out 1”の海辺のあの家に繋がっていくのかどうか。こんなふうにとめどなく連想が繋がっていくとても風通しのよい映画だった。
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