9.28.2020

[film] India Song (1975)

21日、月曜日の晩、MUBIで見ました。Michael Lonsdaleの訃報を聞いたので。
Marguerite Durasの作・監督 - 主演のDelphine Seyrigの赤いドレスと赤いポスターも有名で、元は劇作として書かれたものの劇場では上演されていない。

フランス占領下にあった30年代、カルカッタのお屋敷 - 実際に撮影されたのはボローニュだって - にフランス駐在外交官夫人のAnne-Marie Stretter (Delphine Seyrig)がいて、ゴージャスでエレガントで女王のようで、見事なデコールのお屋敷ではいつもいろんなパーティが開かれていて「社交」があるので男たちが周りにやってくるのだが華やかな雰囲気はこれぽっちもなくて、みんな物憂げな顔でゆらゆらと佇んでいるばかり。そんななか思わせぶりな格好で男がひとりふたりさんにん彼女の傍に近寄って、ダンスを舞うようなポーズで寄り添って固まってオフ・スクリーンの声が聞こえてくるばかり、ひたすらそういうのが繰り返される114分で、これが退屈かというとぜんぜんそんなことはない。この世のあらゆるパーティがしぬほど退屈で、人生もまた然り、であるのであれば、これが退屈に見えるわけがない。 むしろこんなにかっこよく美しい立ち姿があるのだろうか、とうっとりしているうちに終わってしまう。

形式としては「インドの歌」なので、ミュージカルとして捉えるのが正しいのかもしれない。主人公が歌わない - 歌うことを禁じられたその歌を聴くかたちで進行していくミュージカル、でも主役は間違いなく彼女で、彼女ぬきには成立しないドラマのなかで、彼女は寄ってくる美しい男たちとゆらゆらして、その罪悪感とゴシップが螺旋を描いてダンスして、周囲に腐臭をまきちらし、彼女はそれを「ハンセン病にかかった魂」と呼ぶが、そういう土地で、伝染病なのでどうすることもできないのよ、と。 そういうドラマをスクリーンのこちら側で見るということ。

いろんな男が寄ってくるけど、いくらがんばっても相手にされず涙目になるラホールから来た副領事(Michael Lonsdale)が発情した猫みたいにえんえん泣き喚くその声がすさまじくて、最後まで残る(これも歌としか言いようがない)。そしてこれも虫の声や鳥や猿の声と同じように、この熱帯の土地の夕暮れに響き渡るなにかなのだろう。

例えば、この状態における彼女の自由、あるいは抑圧、自由がもたらすはずの何かについて考えてみる。それらが広間の鏡に、スクリーンに映りこんでいる。自国から離れた植民地で、奇妙なかたちで囚われた状態にある彼女たちの「社交」 - これらを美しいとか醜いとか言うことにどんな意味があるというのか。

それにしても。同じ年にリリースされている“Jeanne Dielman, 23, quai du commerce, 1080 Bruxelles”との符合や違いについても考えてしまう。双方の映画で殆ど喋らない - けど決して媚びたり屈したりすることのないDelphine Seyrigが女性の行動やその意味について、どれだけ多くの示唆や考察を与えてきたことか。

1月にマドリッドで見た展示 - “Defiant Muses: Delphine Seyrig and the Feminist Video Collectives in France in the 1970s and 1980s” には映画で彼女の着た赤いドレスが置かれていた。これがあれなんだわ、って。

そのうちコロナの - Lock downの時代の魂のありようを描いた”India Song”や“Jeanne Dielman”が作られる日がきてほしい。 SNSで罵りあったりインスタに今日のパーティや今日の料理をあげたりしつつ、けっ、ばーか、とかやるの。



Baxter, Vera Baxter (1977)

10日、木曜日の晩、これもMUBIで見たMarguerite Durasの作・監督作品。
売りに出されているでっかいヴィラをVera Baxter (Claudine Gabay)は買うのかどうするのか、夫とのこととか過去の話をどこからか現れたDelphine Seyrigと対話していく。

身体はがらんとしたヴィラに置きつつも、それはまだ彼女のものではなくて、でも彼女の思考や振り返りはなぜかその空間に囚われたまま逃れることができずにぐるぐる回っていく。 “India Song”にもあった時間や空間への縛りや囚われを人生の終わりを見始めた女性に適用したらこんなドラマになる。彼女の名前が繰り返される。

空間からいなくなる、という表現の一例としてドキュメンタリー - ”Women Make Film” (2019)では、“Leave Out”っていうチャプターでも紹介されていた。


寒くて天気もどんよりで気圧もおかしくて、もう季節は完全に秋冬の方に行ってしまったんだわ、ってがっくりで外に出ないで死んでしまう1日が今年もきた。これが常態化すれば出ていけるようになるんだけど、いつも入り口で固まってしまうんだわ。

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