5日、土曜日の晩、MUBIで見ました。ドキュメンタリー。とってもおもしろかった。
自分が歳をとったからだと思うのだが、ここ数年、え?こんな人が亡くなっちゃったの? って愕然とすることが多くなって、なんで愕然とするかというと、まずは自分のなかで彼/彼女はとても身近に生きて本棚とか積まれた床とかレコード棚とかにいる人だと思っていたから、それに続いて、そうは言ってももう彼も彼女も(自分も)いつそうなってもおかしくない年齢になっているのだ、ということに気づかされるから。もちろん本人も予測していなかったであろう突然の、というのもあるけど。
で、そういう愕然とした状態を反芻して、しばらく気にしないでいたかも、というしょんぼりも含めて反省したい時に見るのがThe New York TimesのObituaries – 訃報 欄で、亡くなった人はどんなふうに亡くなったのか、彼/彼女の代表作として紹介されているのはどういう作品で、彼/彼女の死を通して彼/彼女の一生がアメリカではどう紹介されているのか、を読む。もういっこ、暇なときには、ぜんぜん存じていない方だけれどこんなおもしろい人・すごい人が亡くなっていたのね、というのを発見する、というのもある。歴史は自動に勝手に動いていくわけではなく、事件でも現象でも必ずその起点や背後にはひとりの人がいる、というのがここに来るとわかるの。
このドキュメンタリーはNew York TimesでObituaries – Obit 欄を担当するセクションの男女数名に密着して、亡くなった人の記事を書くためにどういう取材や裏取りをしてどういうことに着目したり気を付けたりしながら記事にしていくのか、を担当者たちへのインタビューといくつかの例を並べつつ、訃報を書く、という仕事ってどういうものなのか、を紹介していく。
例えば出てくるのは、著述家David Foster Wallace、NASAのJack Kinzler、タイプライターのリペアマンManson Whitlock、エノラ・ゲイから原爆を落とした操縦士Colonel Ferebee、Alka-Seltzer を始め60年代にTV CMのベースを作った宣伝マンDick Rich、1960年の大統領選のTV debateでJFKの選対をして劣勢を覆したWilliam P. Wilson、などなどの死と彼らの生涯を訃報に纏めたときの発見とか再定義とか。
この人たちは教科書に載るほどすごいことを成し遂げたわけではないけど、間違いなく今の我々の生活のどこかになんらかの形で関与したり影響を与えたりしている。そういう糸を表に出して確認するというのと、家族や知り合いにとっては彼/彼女を悼むのは勿論、その記事を通して彼/彼女の人生と再会する・その生涯を再訪する - そしてもちろん忘れないよ - という意味もあるのだ、と。
このサイトにも自分にとって大切だったミュージシャンが亡くなったりしたときに文章を載せたりしているが、最初にその人の死の報に触れてなにを感じたのか、なぜそう感じるのか、について書き始めると、どうしてもその人の作品とその軌跡とかライブパフォーマンスについて、更には生い立ちや交流関係にまで入っていってしまうことがあって、それを通して彼らへの愛を再確認する - Obit担当の人達はきっとそれを日々多かれ少なかれ何人もの人達と向き合ってやっている – しかも決められた字数と形式のなかで - の偉いなすごいなって。
あと、おもしろかったのは”The Morgue”と呼ばれる社の資料保管庫で、ここにインデックス毎にいろんな写真や記事がぜんぶ保管してあるのだが、切って貼っても含めすべて人手の管理が積み重ねられてきたのでどこになにがあるのか素人が触るとやばい海のようになっているらしく、なんかすごい。かつてここに隠されたある情報を巡って死体が.. みたいな迷宮推理小説が書けそう。 デジタル化しないでね。
そしてここに保管されているAdvanced Orbit – 予め用意されている有名人の訃報 - 真っ先に名前を挙げられてしまうStephen Sondheimとか、1931年に用意されたけどその後80年間使われることのなかった女性飛行士のElinor Smithさんのとか。
人の死って、新聞に載るような出来事であるのと同時に、それ以前にその人と一緒に生きてきた時間が閉じる、閉じたことを確認するひとりひとりの行為に繋がる、とてもパーソナルなもの – 死ぬときはひとりなんだから基本はパーソナルなものなんだよね、って。
今日は911から19年目で、毎年我々は「犠牲者」を悼むのではなくて、あそこで呼ばれるひとりひとりの名前とその家族のあの日に起こったいろんなことを思ってお祈りする。どっかの国のバカが戦死者を「英霊」とか一括りにするのってほんとに無礼失礼極まりないなとか、そういうところまで思いを巡らすことができるよいドキュメンタリーだった。
9.12.2020
[film] Obit (2016)
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