8月30日、土曜日の晩、MUBIで見ました。英語題は“The Trout”。
MUBIでこれから始まる特集” - Isabelle Huppert: The Incontestable Queen”の最初の1本。
原作はRoger Vaillandの64年の同名小説で、監督はJoseph Losey、撮影はHenri Alekan、プロダクション・デザインはAlexandre Trauner。Castにも結構有名なひとがいて、半分くらい日本が舞台で日本の人も出ているのに、日本での公開は映画祭とかのみ、ずっと後になってから、2012年にWOWOWで放映された(邦題は『鱒』)らしい。 IMDbによるとオリジナルのフランス版は116分あって、US版は105分(or 103分?)、MUBIのは99分。よくわからない。
フランスの田舎の町でFrédérique (Isabelle Huppert)が鱒の養殖場で働いていて、地元のボウリング場でそこに来ていた実業家Rambert (Jean-Pierre Cassel)とその妻Lou (Jeanne Moreau)と知り合って、賭けボウルをして勝ったりして、Rambertと部下のSaint-Genis (Daniel Olbrychski)は彼女の堂々としたさまを気に入って、日本での商談に一緒に来ないか、って誘うのだが、彼女はGaluchat (Jacques Spiesser)と結婚しているのでだめ、と返して、でも結局Saint-Genisの商談に付き合うことにして飛行機に乗ってしまう。
こうして80年代初の東京にやってきたFrédériqueが不思議の国ニッポンで見たり知ったりするいろんなこととか人 - 日本側の実業家で山形勲とか - と、なんとか関係をつくって彼女を飼いたいSaint-Genisとの間でごたごたするのとか。 結構重くて暗い内容なのかしら、と構えていたのだが、寧ろ逆で、プラスティックでぺらぺらの都会を舞台に描かれるビジネスもセックスも権力もトラウマも偉そうなやつらが偉そうにしているばかりのひたすら空虚な水槽のなか、つーんとして泳ぐ非養殖系のFrédériqueがひたすら生々しい、とっても80年代ぽいやつだった。
日本側のコーディネーションを誰がやったのか知らないが、Joseph LoseyもHenri AlekanもAlexandre Traunerも、日本の特徴的な建築とか意匠の美だの意味だの歴史だのなんだのをきちんと捕まえて物語に活かそうとするつもりなんてこれっぽっちもなかったようで、結果不思議な書割の前で不思議な顔をして突ったつばかりのIsabelle Huppertの容姿のみが浮きあがっていてすばらしい。彼女のロング - ミドル - ショートのヘア三態を見ることができるし。
これならここから20年後の東京を舞台にした”Lost in Translation” (2003)の方がまだ当時の東京の都市のありようが異邦人(の恋)にどう作用したのかをきちんと捉えていたような気がする。もういっこ、Joseph Loseyの過去の作品だと”Eva” (1962)があって、これも異国(イタリア)を舞台に素性不明のEvaにぺらい男がきりきり舞いさせられるやつで、そういえばここでEvaを演じていたのはJeanne Moreauだった。 この『鱒』でも唯一落ち着いてFrédériqueのことを、その行く末を語っていたのは彼女だったような。
たぶん今の若者が見たらなんじゃこりゃ? なのかも知れないが、80年代頭の新宿のディスコとかはだいたいあんなかんじだったとおもう。大屋政子は見たことなかったけど。 なんかどれもこれもみんな失われてしまったねえ(そして失われ続けている)。 戦争があったわけでもないのに。ずーっとこの調子で来ているけど、本当にいいの? いまの東京とか、ほんとうに薄っぺらで世界一貧乏くさくてつまんないと思う(とか言うのは老人だけだから)。
9.06.2020
[film] La Truite (1982)
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