11月13日、木曜日の晩、Harold Pinter theatreで見ました。
事情はよくわかんないけど、チケット代高すぎ。Stallの後ろの方で£200くらい、それでもびっちり埋まっている(ずっと)。
7月にOld Vicで見た”Girl From the North Country”のConor McPhersonが1997年に書いて初演した劇の再演で、アイルランド公演からのツアー。今回も彼自身が演出を手掛けている。休憩なしの1時間40分。
アイルランドの田舎のバーで、時代設定は明示されていないのだが、登場人物が酔っぱらってFairground Attractionの”Perfect”を口ずさんだりするので、80年代末か90年代初ではないか。
オープニング、幕があがると古くて暗いバーで、向かって右側にカウンターがあり、左奥にドアがあって、椅子がいくつか。そこにJack (Brendan Gleeson)が立っていて、ひとりでカウンターの中に入ってコップを出して、何を飲みたいのか蛇口をがちゃがちゃやってうまくいかず、そうやっているところにバーテンダーのBrendan (Owen McDonnell)が入ってきて灯りをつけて、ふたりのやりとりからJackは常連中の常連で、BrendanはJackのすることも求めているものもぜんぶわかっているのでなにも気にしないで放っておいている。
そこから別の常連らしいJim (Sean McGinley)が現れて、彼も自宅の居間にいるかのように自然にそこに溶けこんで、更に男女ふたり – ちょっとお喋りで騒がしいFinbar (Tom Vaughan-Lawlor)と地元民ではなさそうな女性のValerie (Kate Phillips)が現れる。別にバーなんだから誰が来たっておかしくないのだが、ふたりの登場によって少しだけいつもと違う雰囲気になったよう – に見えて、でも誰もそんなこと気に留めず、騒ぎもしないでいつもの会話のトーン、リズム、間合いを維持していく、それを可能にしている仄暗いバーのセット、外で微かに鳴っている風音、なによりも俳優たち、が見事。”Girl From the North Country”の大きな家もそんなかんじで維持しているなにかがあったような。
他所からきたValerieがいたせいもあるのか、それぞれにこの土地に古くから伝わる変な話や怪談をしていって、みんな知っている話のようで、ほぼどれも酔っ払いの独り言戯れ言で、合間合間にFinbarがバカなことを突っこんで、やがてValerieの番になると、彼女の話は幼い娘を失った実話に基づく悲しいそれで、みんながちょっと静まりかえってしまったところで、Jackがある話を始める…
それは喪失のこわさ、哀しさを語るというよりも、その不在がずっと自分の身に纏わりついて、自分自身になって、ずっとそこから逃れられないのだ、という根源的な底についてのもので、それがあの薄暗い穴のような場所で、Brendan Gleesonの口から語られると、この人はもうこの世にいない何者かなのではないか、このバーは向こうの世界との間の堰(Weir)としてあるのか、など。あるいは、こういう人の語りが堰のように別の世界の何かをこの世と繋ぎ留めたりしているのか、とか。
勿論、話はその奥に向かっていくことはなく、みんなはぽつりぽつりと帰り支度をして抜けて行って、最後に冒頭と同じようにJackとBrendanがのこる。それだけなのだが、なんとまあ、しかない。こうやって、こんなふうにアイルランドのいろんなお話し(と歌)はずっと語り継がれてきたのだろうな、と思うし、だからみんなあんなに酔っぱらっちゃうんだな、っていうのも感覚としてわかってしまうような。
1時間40分という時間はたぶん丁度よくて、これ以上続いたら戻って来れなくなる可能性があったかも。
でももう一回見て浸かりたくなる、濃厚な時間だった。Brendan Gleesonの立ち姿がとにかくすごすぎ。
あと、こんなふうに特定の場所の周りに渦のように巻かれて浸かって流れる時間て、映画を見ている時のそれとは明らかに違うと思って、それがなんなのかを掘りたくて演劇に通っているのだわ、って。
Playing Burton
11月16日、日曜日の昼にOld Vicで見ました。
Welsh National Theatreの制作で、ロンドンではこの日の昼と夜の2公演のみ。
作はMark Jenkins、演出はBartlett Sher、Matthew Rhysのひとり芝居で、彼がWales出身の名優Richard Burtonを演じる。 1時間40分くらいだけど1回休憩が入る。
ステージ上には簡素なテーブルと椅子があるだけ。スーツにタイ姿で登場するなりコップに酒をぐいぐい注いでがぶがぶ飲んで、壊れた機械のような勢いでウェールズのPontryhdyfenの炭鉱夫の極貧家庭で生まれた幼少の頃からのことを語っていく。
後半は、まず新聞に載った自分の訃報を読みあげ、ちゃんちゃらおかしいわ、みたいに自身の名声やElizabeth Taylorとのこと、KennedyやChurchillと会った時のこと、要は俳優として頂点にあった自分のキャリアを高いところから喋り倒していく。
Richard Burtonは、12月のBFI Southbankの特集でかかるので、そこで作品を見ながら考えていきたいのだが、あんな高い声でべらべら喋っていく人だったのかしら、というのが少しだけ気になった。
11.20.2025
[theatre] The Weir
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