10月25日、土曜日のマチネを、National TheatreのOlivier Theatreで見ました。
この春にNational Theatreの新たな芸術監督に就任したIndhu Rubasinghamによる最初の舞台演出で、ギリシャ悲劇エウリピデスの『バッコスの信女』を俳優でラップアーティストでもあるNima Taleghaniが劇作家デビュー作として翻案したもの。 いろいろ元気があって威勢はよいことはたしか。
Olivier Theatreの楕円形のでっかい照明が月のように威圧的に宙に浮いていて、傾斜のある平な岩がそれに沿うように層をなして積みあがっていて、なかなかアポカリプスなふう。場面によって岩岩がぐぉーってゆっくり回転していったりする。
神デュオニソス (Ukweli Roach)が傲慢な人間の王様ペンテウス (James McArdle)によってバカにされたので頭にきて山中に囲っているバッコスの信女たちを率いて人間の世界に乗りこんでいく。いろいろ姿を変えていくデュオニソスは金ラメの衣装でイキるラッパー(たぶん歯にはダイヤモンド)で、彼に山中に連れてこられた信女たちにはVida (Clare Perkins)っていうリーダーがいて、毛皮や襤褸をまとった裸族のよう(でもメイクとかはして髪の毛もちゃんとしている)で、全員がふた昔くらい前のミュージックビデオに出てくるようなおらおらした威勢のよいヒップホップのナリで、どうせ浮世離れした現実世界の話ではないから好きにやっちゃえ、ということなのだろうが、どうなんだろうか? 預言者テーセウス (Simon Startin)はガンダルフみたいな世捨て人のナリでおろおろしているし、全体に漫画というか、ミュージカルにできそうな、することを狙ったエンタメっぽい雰囲気。9月末にShakespeare’s Globeで見た”Troilus and Cressida”に雰囲気はやや近くて、ふたつの勢力がぶつかり合うために(ちょっと楽しそうに)ぶつかっていくような。
ギリシャ悲劇の現代演劇化、というのが過去からどんな形で変遷してきたのか、今度のこれがどれくらいとんがったものなのか、はわからないのだが、タイトルであるBacchae(信女たち)の偏見込みで人からも神からも虐げられ、男たちの好きにされて岩山に追いやられた女性たちの吹き溜まった怒りが互いにどつきあいながら渦巻いていくかんじはなかなかよくて、それが女装してのこのこやってきたペンテウスを八つ裂きにしてしまうところは楽しめる - 楽しんでしまってよいのか、は少しあるが、でももっといまの世の中の虐待を受けたり疎外されたりしてきた女性たちのふざけんじゃねえよ、の怒りをぶちまけて狼煙をたくようなものにしてもよかったのでは、とか。 同様にアガウエー (Sharon Small)が嬉々としてぶらさげていた首が我が子のペンテウスのものであることを知った時の悲嘆も、そんなに響いてこない気がした。 ドラマチックであり、エモが炸裂するシーンであることはわかるのだが、なにかが薄まってしまっているような。 それが音楽によるものなのか衣装や舞台装置によるものなのかはよくわからなくて、うんとラディカルな、すごいことをやっているかんじが来ない。神々(と人間)の物語に込めるもの、込められていてほしいもの、のギャップだろうか。これだと神も人も、どっちも割としょうもないな - 実際そうであるにしても - で終わってしまうし、Bacchaeもずっと世に放たれずにあの岩山に残されたままなのかな、って。
11.06.2025
[theatre] Bacchae
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