1.03.2025

[theatre] The Merchant of Venice 1936

12月28日、土曜日の晩、Trafalgar Theatreで見ました。

英国各地をツアーしてきた舞台の、ロンドン公演(再演?)の初日。この日、本当は朝から日帰りでベルギーに行っているはずだったのだが、ウィーンからの戻りの便がテクニカルなんたらで突然キャンセルになり、交渉して直行便がなかったので深夜にマドリードに向かい、そこから28日の朝にロンドンに戻ってきて、ベルギー行きはどうにか翌日に移すことができたものの、なんかつまんないので当日にチケットを取った。

原作はシェイクスピア、演出はBrigid Larmour。タイトルにもある通り、1936年、舞台は英国・ロンドン、その東側に暮らすユダヤ人の金貸しShylockを女性のTracy-Ann Obermanが演じており(これに合わせてLauncelot も女性に置き換えられている)、いくつかのエピソードは彼女のGreat grandmother(曽祖母)のものだという。(Obermanは舞台のAssociate Directorでもある)

第二次大戦に向かうなか、英国でもイギリス・ファシスト連合を率いるOswald Mosleyを中心にユダヤ人排斥の動きが出てきて、貿易商のAntonio (Raymond Coulthard)も、黒服短髪のそれに倣ったいかにもの挙動と傲慢さで金貸しのShylockのところにお金を借りにきて、彼にとっては屈辱ぽい取引条件 - 返せなかったらお前の肉を1ポンド - をのんで出ていく。

キャストがざわざわと舞台に出入りしていくのは客席の右左からで、昔の他人事として静観することを許さない。いろんな取り引き/駆け引きの浮ついて根拠のないこと、でもそこに嵌って縛られてしまうこと、など。

そんなAntonioとPortia (Hannah Morrish)を中心とした上の階層の人々(ロンドンの西側)の恋の駆け引き、というより、その裏側で裕福だった家や居場所を奪われ投石され、Shylockに至っては裁判を経てキリスト教に改宗させられ、それでも誇りを失わずに踏みとどまって戦ったユダヤ人、が前面にでていて、最後には1936年のBattle of Cable Street - “They shall not pass!”まで描かれる。 (Cable Streetの戦いは昨年サザークの劇場でミュージカルになっていたが、いまだにヴィヴィッドなテーマらしい) こういう終わり方と繋げ方でよいのか、はあると思うが、シェイクスピアの風呂敷はここまで広げてしまうことだってできるのだな、と。

ちょっとだけ言うと、Shylock 役のTracy-Ann Oberman以外のキャラクターがやや浅くて中身があまりなさそうに見えてしまうのがなー、くらい。

あの有名な台詞 - “If you prick us, do we not bleed? If you tickle us, do we not laugh? If you poison us, do we not die?” は当然でてくるのだが、思い出したのはルビッチのコメディ - “To Be or Not to Be” (1942)でシェイクスピア劇団の役者Greenberg (Felix Bressart)がこの台詞で切々と訴える忘れがたいシーンで、そういえばこの映画もポーランドに侵攻してきたナチスのファシズムと戦う(というか、おちょくってやる)やつだったなー、って。

Shylockのような人々がこうやって生き延びてきた、はわかるのだが、Antonioのような極右の連中もしぶとくいまだにヘイトを撒き散らし続けて100年くらい、そこらじゅうの世界で平気な顔をしているわけで、そっちの方が根深くて興味深いかも。社会史学方面など、いろいろ言えるのはわかるけど、ごくふつうになんなの? って。

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