4.17.2022

[film] 女体 (1964)

4月9日、土曜日の夕方、シネマヴェーラの武満徹特集から恩地日出夫監督作品を2本続けて。
1月に亡くなられた監督の夫人で美術監督でもあった星埜恵子さんが上映前にトークを。

『女体』で生牛を殺して製作から3年間干されてしまった監督に武満がアンブローズ・ビアスを引いて『あなたは嘘つきであるより詩人の側に立つ人だ』と励ましの手紙を書いた、それが恩地の生涯の支えになったという話、よかった。

女体 (1964)

田村泰次郎の小説『肉体の門』と『埴輪の女』のストーリーをベースに、恩地日出夫が脚色・監督した作品。読みは「じょたい」 - 英語題は”The Call of Flesh”。 こないだ神保町シアターで見た浅丘ルリ子のとは関係ない。同じ年の鈴木清順の『肉体の門』のマヤは野川由美子だったねえ。

デパートで子供と姑と一緒に買い物をしていたマヤ(団令子)はセン(楠侑子)に声をかけられてあら!、ってなって、そこに原爆に終戦(玉音放送)に東京裁判にマッカーサーに闇市に、昭和のこの時点までの泥沼がコラージュされてタイトルがでる。

現在のマヤはそれなりに落ち着いたふつうの家庭の主婦で、夫は埴輪を愛でて集めたりしていて、でもその落ち着き(ふり)がセンとの再会で揺らいで、終戦後にセンたち仲間と体を売りながら穴のようなとこで暮らしていた頃のことを思い起こさせる。そこに突然現れた荒っぽい元軍人の新太郎 (南原宏治)が共同生活をしていた彼女たちの間に波風と生気をもたらし、彼が盗んできた牛一頭をみんなで殺して食べて、その後に新太郎と交わったマヤは仲間からリンチされるのだがそこで初めて彼女はリアルな生を実感して、その頃からすれば今の自分は夫も含めて埴輪のように乾いて固化してしまっていると思う。

そしてそんなふたりの前にやくざとなってドラッグの密売をしているらしい新太郎が、まずはセンのところに現れて、そこからマヤにも声をかけてきて、いまの落ち着いたマヤには会う理由なんてないはずなのに彼の待つ旅館に赴くと、彼は死ぬつもりで薬を飲んで…

戦後の混沌から立ちあがった我々が安定と引き換えに失ったものがあったとしたら、それはおそらく - という問いかけに対して、過去の混沌そのもののような雨と闇と肉体(女体)を並べてみる。「女体」は69年の映画でもサバイバルの道具として機能していたが、両者でその意味は結構異なって、こちらははっきりと門 = ゲートとなって彼女を突いて、痙攣するような生を呼びよせて掴もうとする。そして背広を着てビジネスをしているような男たちは(どちらの映画でも)ろくでもない。

その反対側で照射される戦争の野蛮と凄惨 - なぜ牛を殺さなければいけなかったのか、は闇を貫いてはっきりと説明されて、それは新太郎の最期にも繋がっていく。生きるために - 生きるというのはこういうこと、というのを示すにはあれしかなかったのだと。


めぐりあい (1968)

脚本は山田信夫と恩地日出夫の共同。かわいいタイトルデザインは和田誠。英語題は”Two Hearts in the Rain”。 主題歌は武満徹と荒木一郎。

自動車工場の組み立て工として働く努(黒沢年雄)がいて、通勤電車から元気いっぱいに飛び出して走って職場に向かう途中でベアリング部品屋で働く典子(酒井和歌子)を突き飛ばして怪我をさせて、そうやって知り合ったふたりが近づいていくまで。

努の家には定年間近でぱっとしない父親がいて弟は大学に行きたがっているがお金がないので行けるかどうかは微妙 - それは努の時も同じだった - で、父親がいない典子の家は母の森光子と弟の3人暮らしで、母は死んだ夫の弟・有島一郎から求婚されて揺れている。

休日、努が借りたダンプでデートしよう、って海辺に行って泳いで岩場で横になっていると潮に濡れた努のボディに典子がショックを受けて、帰りの土砂降りのなか、ダンプの荷台で宙づりのキスをして、でもこの後からなんかぎくしゃくするようになって、努の家では父がクビとなって弟の大学進学は無理に、努も仕事でミスをして別の過酷なラインにとばされて、典子の家では有島一郎に会いにいった母がバスの事故で転落死してしまう。

最後には横浜ドリームランドで再会して話してめでたしになるのだが、いまの世の生き難さを貫く宙吊りの肉体の普遍 - とにかく生きよう - というテーマは『女体』から継続している気がした。 形式も語りもまるごと青春しててがたがたと蒼くて、でもそんな彼らの側に立って語らせたり聞き取ろうとしたりする注意深いやさしさ - 共感を強いてくるそれとは別の - があるような。


Coachella、日曜の昼にてきとーに流していたがあまりに知らないのばっかりすぎた。 Danny Elfmanぐらい、ってだめよね..

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