4月11日、月曜日の晩、ラピュタ阿佐ヶ谷の『はじめの第一歩 -映画監督50人の劇場デビュー作集』で見ました。この特集、他にも見たいのいっぱい。
監督は増村保造(イタリアから戻ってきた直後のデビュー)、原作は川口松太郎、脚色は舟橋和郎、製作は永田秀雅(こてこて)。
暑い夏の日、埃っぽい道を抜けた先にある小菅の拘置所に欽一(川口浩)は選挙違反で入っている父親の大吉(小沢栄太郎)に面会に来て(わざとらしく杓子定規な口調)、そこで同じく父親の面会にきて悲しそうにしていた章子(野添ひとみ)を見かけて、少し気になったので追いかけて病弱な彼女の父の食費をなんとかすべくお金を工面してあげて、そこから彼女はそのお金を返すべく彼を追いかけまわして、そんなふう右往左往した果てにようやくぶつかった彼と彼女は一緒に競輪に行くと、わかんないわって彼女が言っていたばくちが一発で当たって、その金で今日一日遊ぼうよ、って始まる最高のデートムーヴィー。
そうやって友人にバイクを借りて後ろに彼女を乗せて気持ちよく突っ走って、カレーライス食べてアイスクリーム食べて海に行って水着と帽子を選んで、海でばしゃばしゃ泳いで(もちろん彼女は泳げない)、こわごわローラースケートをやって、バーでピアノを弾いて歌って踊って、彼女を知っているらしい強引な男(若松健)が横に現れるのだが、とにかく楽しかった夏の休日が別れ際のくちづけをするとこまでいく – 音が出るくらいになかなか激しめのやつ。
あとは、章子の父親を拘置所から出すために必要な10万円を巡って、彼女が金持ちの若松健 - こいつは彼女が絵のモデルのバイトをしている画家の息子 - に嫌々頼むのと、欽一はデートの途中で偶然会った宝石商の母(三益愛子) - 今はすっかり疎遠になっている – に10万円投資してみないか、と持ちかけてなんとか小切手を切って貰い、でもその小切手を届ける先 - 彼女の住所を書いた紙をどこかでなくして、ないないって走り回っているうちに彼女のアパートにはぎんぎんの若松健が現れて… (このあと定番の殴り合いになるのだが欽一はものすごく弱い)
野添ひとみのひょろ長い手足と大きな目の輝きとか、こんな絵にかいたような、というか漫画みたいにきらきらの一日、よく並べたものだ、と思いつつ、そこに現実離れしたかんじはあまりなくて、今から60年以上昔の話のようにも見えなくて、バイクの疾走から海辺の遊びから定番クラシックな写真のような普遍性を湛えているかんじ。
あと、どちらも父親が刑務所にいる、というところから始まった付き合いでも、欽一の父親は選挙の買収容疑で開き直って懲りているかんじはなくて、章子の父親はやむにやまれぬ着服容疑で体も壊してかわいそうで、そこに至るまでの見えない力とか階層段差のようなところがそのままふたりの間にも降りてくるのかな、と思ったらもろそんなかんじがして、これ父親の状況が逆だったらどうだっただろうか、とか(映画にはならない?)。
原作の川口松太郎と母役の三益愛子は実の夫婦だしその実息子は川口浩だし彼はこの3年後に野添ひとみと結婚するので、ものすごくリアルな家族総出の実演ドラマである、と思うと、ラストに実父を連れて出所した野添ひとみを車のなかから三益愛子と川口浩が値踏みするように見て、彼らを車に乗せてあげましょう、って母が言うラストは、なんかすごいなー、とか。こんなふうにとっても爽やかでも後から這うようにやってくる生々しさって既に増村保造のものではないか? とか。
そして章子とよれよれの父が車に乗ったところで「娘よ、よくやった」って後部座席の父が突然変貌して、親娘で三益愛子と川口浩をぼこぼこにしていく - 過去に酷いことをされたらしい - というのが続編で、ようやく出所できた川口浩の父がかつて妻だった女のためにこの戦いに身を投じるのが第三弾になるはずだったんだって。
それにしても増村保造、このデビューの年にあと2本、『青空娘』と『暖流』も撮っているなんてすごい。(この翌年は4本..)
4.19.2022
[film] くちづけ (1957)
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