4.01.2022

[film] Nightmare Alley (2021)

3月26日、土曜日の晩、109シネマズの二子玉川で見ました。

原作はWilliam Lindsay Greshamの同名小説(1946)- 未読、最初の映画化はEdmund Gouldingによる1947年の(昔見たけど憶えが..)、監督はGuillermo del Toroによるオールスターキャスト映画 - 『ナイル殺人事件』よかすごい。

冒頭、むき出しのぼろぼろの家屋でStan (Bradley Cooper)がひとりで床下に布袋 - 死体が包まっていると思われる - を投げ込んで火を放ち、燃えあがる家屋を振り返らずに後にする。

Stanはどさまわりのカーニバル/サーカス/遊園地/見世物小屋が固まった一画に流れ着いて身を寄せて、生きた鶏を食いちぎる(出し物の)獣人の面倒をみたのをきっかけにClem (Willem Dafoe)から仕事を貰うようになり、透視術とタロットをやるZeena (Toni Collette)とPete (David Strathairn)の夫婦にコツを教えてもらった後で、電気ショック(びりびり)のショーをやっていた芸人Molly (Rooney Mara)と一緒になってシカゴに渡り、ホテルのボールルームでなんでも当ててみせまショーをやって評判になる。

その芸自体は、Mollyとの間でサインを決めておいて、相手とふつうのやりとりを絞り込んで事実を当てていく(ように見せる)種も仕掛けもない他愛ないものなのだが、客席のテーブルにいた精神分析医のLilith (Cate Blanchett)から挑戦を受けて、ホームズばりの推理で見事に打ち返したことから彼女と関わるようになって、彼女の抱える高級顧客をターゲットに金儲けをしよう、ってお金持ちのEzra Grindle (Richard Jenkins)を突っついてみるのだが..

もともと血も涙もない孤独なごろつきが興行の世界に関わって身を浸してみたらその奥には想像を超えた鬼畜の世界が広がっていて、抜けられないまま破滅 – というか絡めとられてしまう、というー。欲深さ、快楽の探求、金、邪悪さ、畏れ、罪の意識、貧困、絶望、いろんな中毒 - これらをぜんぶ巻きこんで掻くのをやめることができない中毒、としか言いようのない業が蝕んでいって、気がついてみればー、という絵巻もののような因果のありよう。光に対置される「ノワール」、というより異世界まるごとのごった煮が。

Guillermo del Toroはかつて “Crimson Peak” (2015)で幽霊との愛を、”The Shape of Water” (2017)で異生物との愛を、愛=いびつなものが真ん中にやってくる(そしてひょっとしたらハッピーエンディングかもの)世界を描いてきたが、今回のここで描かれる「愛」は全体のほんの一部でしかなくて、愛というよりはなにかの企てや実践がもたらす/それが見せてくれる世界の像に淫してずぶずぶと溺れて、自身がその一部になっていくので救いはどこにもない。気づいた時にはもう遅くて、怪物の胃酸で自分の体が溶け出している。

そんなことが可能になるのは世界の隅の端っこの、果てのようなところで、だいたい夜で雨が降っていて、人は誰もが中毒だったり変態だったり狂ったり腐ったりしてどうしようもなくて、それがつまり”Nightmare Alley”で、そこに入り込んだら誰も抜けることができない。という隠れ里のような、みんなが知ったり感じたりしているそのありようを描くのは、世界をまるごとひとつ作ることに等しくて、それを実現してしまったプロダクション・デザインはやはりすごい。

思えばこないだの”THE BATMAN” (2022) のGotham Cityもこんなふうに、ずっと雨が降って暗くて、「だーれだ?」の謎々が支配していて、その隅で富裕層ががっちり絡みとられていた。こんな世界の真ん中に突然ぽっかり現れた「ヒーロー」の”THE BATMAN”があんた誰さ? って変に浮きあがってファンたちに寄ってたかって弄られてしまったのは当然のことだったのかも、とか思う。

あと、原作があるからかも知れないけど、なーんとかしてほしかったのは、Cate BlanchettとRooney Mara - ”Carol” (2015) の最強のふたりを揃えておきながら、彼女たちにほぼなんもさせなかったこと、だろうか。Bradley Cooperがああなる前にふたりでとどめのドスを突きたててほしかったかも。 Lady Gagaを場末の歌姫で呼んでもよかったし、そのへんがなー…


クラウス・リーゼンフーバー先生が亡くなられた。わたしにとってあの方こそが地球のキリスト者の象徴で哲学するひとで、あんなに目を開かせてくれる授業はありませんでした。ありがとうございました。

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