4.14.2022

[film] あこがれ (1966)

4月5日、火曜日の夕方、シネマヴェーラの特集『日本の映画音楽家Ⅰ 武満徹』で見ました。
監督は恩地日出夫、原作は木下惠介、脚本は山田太一。

大雨の日、父親の小沢昭一に手をひかれて親のない子達の施設に入れられる少女信子(林寛子)がいて、信子は父親から離れたくないって泣いて叫んで暴れて、でもやくざな酒飲みの父親は手放したがって捨てるように置いて帰っていって、それを施設の先生の園子(新珠三千代)が面倒みて、しばらくの間ずっとひとりで暴れたり唾はいたりしている猛獣の信子を遠くから一郎が見て気にしている。

やがて一郎は施設から加東大介と賀原夏子の営む平塚の陶器店に養子として貰われていって(出ていく一郎を信子がじっと睨んでいる)、よい養父母に大切に育てられてよい青年に成長して、そこのおばの沢村貞子からは縁談が頻繁に持ちこまれるようになるのだが、一郎(田村亮)はあまり乗り気ではないらしい。

そんな時、近所の中華料理屋で大きくなった信子(内藤洋子)が働いているのを見て声をかけるのだが、彼女は土方の仕事で転々としている小沢昭一にくっついてお金や生活の面倒を見ていて、自由な時間を取れる余裕もなさそう。でも、施設での互いのことも忘れられないので少しづつ会うようになって、一郎が小沢昭一に彼女を縛らないで、って直接言いに行ったりするのだが、信子がそうしたくてやっているようなのでどうすることもできなくて、園子先生に相談してみても駆け落ちして失敗した自分の過去からあまり賛同してもらえなくて、そのうち信子はまたどこかに消えてしまう。

やがてもう逃げられないような縁談が一郎に来て、でもやっぱり信子がいいんだ.. ってなっている時に再婚の時に一郎を捨てた母すえ(乙羽信子)が施設の園子のところに現れて、一家でブラジルに移住する - もう戻ってくることはないだろう、と…

ここから先は一郎と信子のお好み食堂(なんかなつかし)での運命の再会と、一郎の見合い話(で養父母は相手方のいる修善寺のほうに)の行方と、旅立ってしまうすえは最後に一郎と会うことができるのか、ってはらはらして、横浜の埠頭の船出の紙テープのお別れのところではみんなぼうぼう泣いてしまうの。乙羽信子、涙を浮かべて手を振っているだけなのにすごい。

なにが「あこがれ」なのかよくわかんないけど、とてもよくできた青春&家族ドラマで、悪者 - 小沢昭一ですら - はひとりもいなくて、大事件が起こるわけでもなくて、みんなが不器用ながらも精一杯に生きたり話したり走ったりしていく様を昭和の雑踏からのクローズアップや遠近をうまく使ってその表情とか背中を中心に焼き付けていく、その丁寧なやさしさ(としか言いようがない - これって木下惠介なのか山田太一なのか恩地日出夫なのか、おそらくぜんぶ)がすばらしいと思った。最後にふたりが浜辺を走っていくところとか、それだけなのに、ぜんぶわかってしまうスケール感。

武満徹の音楽はギター中心の前衛なんてかけらもない、エモにきっちり伴奏/変装していく王道メロのやつで、よかった。  あと、ドーナツと紅茶が。母さん、ブラジルに行くのに紅茶のカップを..


この特集、最初に見た『土砂降り』(1957)は、あ、見たことあるやつだった、で、あとは短編を4つと恩地日出夫作品をふたつ、だけになってしまう模様。残念。  短編4つは、ドナルド・リチー、勅使河原宏、市川崑、松本俊夫の監督作品で、それぞれにおもしろかったのだが、ドナルド・リチーの『熱海ブルース』(1962) がすごくよかった。熱海の旅館ですれ違うように出会った男女ふたりの数日間の恋(のような)を遠めからサイレントのように追って、まるで洋画のようで。 勅使河原宏の『白い朝』(1965)も同じような休日ひと晩限りの、朝までの若者たちを追っていて、これもざらざらひりひりと切ない。
 

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