11.25.2020

[film] In My Own Time: A Portrait of Karen Dalton (2020)

15日、土曜日の午後にDOC NYCで見ました。ここでワールドプレミアされたもの。
エクゼクティブ・プロデューサーはWim Wenders。

1993年に55歳で亡くなったアメリカのSSW, Karen Daltonの評伝ドキュメンタリー。Nick Cave氏がコメントで出てきて、彼女の歌詞やメモを朗読するのはAngel Olsenさん。

テキサスに生まれてオクラホマに育ち、15歳で最初の子供ができて離婚して17歳で次の子供ができて離婚して、21歳くらいでNYに出てきてGreenwich Villageのフォークシーンでミューズとなり、Bob DylanやTim Hardinと交流して、Dylanからは"My favorite singer...was Karen Dalton. Karen had a voice like Billie Holiday and played guitar like Jimmy Reed”と讃えられて、69年と71年にアルバムをリリースするが、大きくブレークするところまでは行かず、いろいろ抱えたまま田舎に引っ込んでしまう。

当時のいろんな問題 – 成功や家族や健康やドラッグのこと - があってなにをやってもうまく運ばなかったNYから去って以降は暗いことの連続なのだが、いろんなアーカイブに残された映像やライブも含めたレコーディング - 深くて強いその声、12弦のギターが音を散らせば散らすほど、石のように籠って古いラジオの奥から鳴っているような、痛みで固化した吐息の痼りとかカサブタが鳴っているようなその声。 最初の一声から囚われて抜けられない夢 – 抜けたくない夢のように残る、その歌声と歌う姿を確認できるだけでも十分見る価値はある。100年くらい前の人 - でもぜったいそこにいた人 - を見ているかんじ。

わたしが彼女を知ったのは2006年に再リリースされた2ndの”In My Own Time”から – 当時Other Musicが大プッシュしていた - で、おそらく当時の – 第二次ブッシュ政権の澱んだ出口なしの空気にうまくはまっていたのではないかと思うのだが、そんなことはどうでもいいくらいに彼女のフォークというよりブルーズのように地面を這いながら留まって強引に”My Own Time”を積みあげてしまうその声の肌理は、いまも、いつでも必要とされている。

映画では彼女の残した手書きのメモや歌詞もいっぱい出てくるのだが、2018年(?だったか)の火事でそれらの資料はほぼ焼失してしまったと.. 


Billie (2019)

これも15日、土曜日の晩、CurzonのHome Cinemaで見ました。
1959年に44歳で亡くなったBillie Holidayの評伝ドキュメンタリー。Karen Daltonのを見た後には丁度よいかも、と思って。

2005年に出た彼女の評伝本” With Billie” (by Julia Blackburn)でも参照されていたジャーナリスト - Linda Lipnack Kuehlが79年に亡くなる(自殺とされている)直前迄録りためていたBillieの周りにいた関係者 - Count BasieとかCharles Mingusとか - への膨大な量のインタビューの録音テープを元に彼女の人生を再構成していく。録音された音楽や映画以外だと、関係者の語りくらいしか彼女の生が現れる場所はないのだろうな、というくらいに虐待、搾取、嫌がらせ、ドラッグ、セックス、金、ギャング、などなどが入り乱れる暗黒の芸能界のオンパレードで、でもだからといって彼女の声や歌がああなっていったのはそのせい、とするのも彼女が聖人だったから、とするのも短絡で、映画もその辺は配慮している。いろんな人の声が聞こえてきても、彼女の歌が始まると全てが沈黙して静止してしまう不思議。

プロデューサーJohn Hammondとの出会いが彼女をスターにしたことは確かだが、”Strange Fruit”のあの特異な世界 – 歌声がひとつの恐ろしい世界を、そこに潜む痛みや哀しみをむき出しにしてしまう – なんであんなことが彼女にできてしまったのかは謎で、でもあの声が伝えようとした世界は今も残っていて、そこに謎はない(なんで止まないで続いているのか、というのはあるね)。どれだけの死者の声を彼女は抱きしめてかの地に運んだのだろうか。

映画では元となったインタビューを録ったKuehlの死にも不審なところがあるとして問題を投げかけている(インタビューで語られた内容に知られたらやばい何かがあったのか、とか)。けど、こちらは軽く触れる程度で、Billie Holidayの生涯と音楽を紹介することに徹していて、よいの。

Karen Daltonの声は彼岸で鳴っているように聞こえるのだが、Bille Holidayの声はいつも耳元で鳴っているように聞こえる。それって痛みを近くに感じるか遠くに感じるかの違いだけで、どこかを怪我したり流血したりしていることは確かで、とにかくそれで自分はまだ死んでいないことがわかる。


夕方ピカデリーの方に行ってみたら、裏道みたいなとこでみんなわいわい立って飲んで楽しんでた。そんなもんよね。

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