19日、木曜日の晩、MUBIで見ました。
インターナショナルの英語題は”The Green Ray”、USAのタイトルは”Summer” - 「四季の物語」のラインではない - 邦題は『緑の光線』。86年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子を受賞している。
なんとなく見始めて続いていたÉric Rohmerの喜劇と箴言シリーズの5つめで、ここに感想を書くのはこれがラスト。
日本の女性誌とかでは『海辺のポーリーヌ』とこれが対で紹介されることが多かった気がして、これって夏でヴァケーションの海辺で恋を探す - そうしながら自分はこれでいいのかとか自問する映画、という枠なのだろうか。でもそれなら男子にだって起こることだし、なんでいっつも女性の特性みたいに - 特に「OLの〜」 とか - 描かれてしまうのか、というのは割と思った。
今回の箴言はランボーの"Ah! que le temps vienne où les cœurs s'éprennent" - 「ああ心が恋に落ちるときがきた」。恋に落ちるのは身体ではなく心である、と。御意。
7月の終わりから8月の初めの数日間。夏休みに入る手前のパリで働くDelphine (Marie Rivière)は一緒に休暇を過ごす予定だったBFと別れたばかりで、ひとりでどこかに行くのもひとりでパリに残るのも嫌なのでどうしようって、友人のグループに入って会話してみたり、ひとりでアルプスに旅してはすぐ戻ったり、子連れの姉家族からは一緒にアイルランドに行こう、と誘われるのだがどれも違う気がする。行った先で調達すればいいじゃん、とも思うが自分はそういうタイプではないの、って街角で『ブヴァールとペキュシェ』を読んだりしながら泣いたり泣きそうになったり。
でも思い切って出かけた浜辺でスウェーデンから来たという女性と少し仲良くなり、カフェで奔放な彼女が声をかけた男ふたりと同席しても、ごく普通の会話についていけない - ついていきたくない - ついていけないのではなくついていきたくないのだ、とか思っていることが嫌になって、嫌になった自分を彼らの目前に晒しているのに我慢できなくなってそこを抜けだして道端に座り込んで泣いていると、そこにいた老人たちがジュール・ヴェルヌの小説『緑の光線』の話をしているのを聞いて、これだわ! って少しときめいたりする。Delphineって、道端に落ちているカードを見入ってしまったり、きっと雑誌の星占いにも一喜一憂するタイプなのではないか。
で、恋なんてぜんぶ諦めて帰りの駅の待合室で知り合った男とぽつぽつ話していると、こいつはあまり嫌なかんじがしないな、とか思い、もうじき日が沈むことに気づいたので、緑の光線だ! って海が見えるところにふたりで走っていくと..
友人のアドバイスとかには一切耳を貸さず、自分ひとりで決めて実行して、人が触ってくる度に妄想を爆走させてその少し先で勝手に自爆して泣いて、人から聞いた言い伝えみたいなのを目撃したらご機嫌が治って.. 見る人が見たらご苦労様の図かもしれないが、見る人が見たら他人事とは思えない。 こういう感覚を引き起こすのは他の喜劇と箴言シリーズの5つと比べるとこの作品だけで、複数の登場人物間の出来事を描くというよりも主人公Delphineの一人語りが前につんのめっていく、それによる彼女の状態の遷移を追う。 (他の5作の脚本はÉric Rohmer単独だが、この作品だけはMarie Rivièreとの共同で、即興が多いと)
この作品のDelphine - 沈む夕日を指差して隣の人の手を取って感激して泣いてる - を見て「恋をする勇気を貰えた」とか言っているひとは相当あれだと思うけど、こういう印象を与えてしまうのはそういう強い語りの構成になっているからで、16mmでの撮影も、素人っぽく被さる暗いJean-Louis Valéroの弦楽も、ひたすらプライベートな映画のように機能して、その機能の仕方が全体として喜劇っぽい、ということなのかしら。
最後に緑の光線が見えるところ、初めて劇場で見たときはあれ? いまのがそれ? くらいのかんじだったのだが、今回のはやたらくっきり「緑」していた気がする。これは自分が歳をとったことに関係あったりするのか? (しねーよ。ただのデジタル化だよ)
昨日からTVで”Last Christmas” (2019)のリピートが始まって、今回は結末がわかっているとは言え、会いたい人に会えなくなっている今の状態で見るとなかなかくるものがあった。
それから、クリスマスチャンネルを中心に”Love Actually” (2003)の垂れ流しは始まっていて、今シーズンすでに5回くらい見てて、画面を見て3秒でそれがどこの場面か言えるくらいになっている。 コロナ禍でもっとも推奨されるであろう愛の告白の仕方、もでてくるの。
11.29.2020
[film] Le rayon vert (1986)
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