13日、月曜日の晩、BFIで見ました(BFIでは新作もいくつかやっている)。
Josh & BennyのSafdie兄弟が、Adam Sandlerと組んでなんか作った、と聞いて誰もが震撼したやつ。
わたしはAdam Sandlerのコメディを深く長く愛してきているものだが、ついに“Punch-Drunk Love” (2002)の線上にありそうな彼の狂った野性を露わにする作品が、(推定)情け容赦なんてこれぽっちもないSafdie兄弟によって作られる。 しかも役柄はNYのDiamond Districtにいるユダヤ人宝石商だというからどんぴしゃだし、でもぜったいに怖くて泣きたくなるに決まっているから、怖いよう、だったのだが、見ないわけにはいかない。
Safdie兄弟の作品は、いまだにあんまよくわからない。”Heaven Knows What” (2014)も、前作の”Good Time” (2017)も画面から目が離せなくてどきどきあっという間なのだが、そんなに暴力的ではないはずの暴力描写 - うまく言えない - が怖くてきつくて、ずっと手に汗握って気がつくと終わっていて、いつも悪い夢を抜けた後のようになる。(これと同じような作家というとBruno Dumontとか)
冒頭はいきなりエチオピアの鉱山で、なんかの宝石を含む石の塊が掘り出されるところで、その石の発する光にカメラが寄って、「2001年宇宙の旅」のラストみたいならりらりのトンネルを抜けると舞台はNYに移り、宝石商のHoward Ratner (Adam Sandler)があまり堅気っぽくない複数の客をあの調子(想像できるそのまま)で魚屋のように捌いているのが見えて、そこに冒頭で掘りだされたのと同じ原石が魚のお腹に入って配達されてきて、それを横で見ていたNBAのKevin Garnett(本人)がそれほしい、と言い、でもHowardはオークションに出すものだからダメ、って言って、Kevinはあとで返すから手元で見たいから、って彼の指輪と交換して持っていく。 その魔法の原石の辿る奇妙な旅とすったもんだを中心に、典型的なDiamond District商人である彼の家族一族とか、別のアパートに囲っている愛人との修羅場とか、どこからあんな濃い臭いの俳優探してきたんだろ? の得体のしれないやばい客たちとかがごった煮状態で、それでもHoward = Adamはどこでも一貫してあのハイテンションで世界で一番信用できるのは自分だから掴まっていろ、って自信たっぷりに転がしていく。
地方のTVで流れているCMみたいにぱおぱおとうねるDaniel Lopatinのシンセとそこに絡むAdamの啖呵がとにかくうさんくさくて安っぽくて、いつあれが来るのかわからないまま話はぐいぐい進んでいって、これってひょっとしたらただの痛快コメディなのかしら、と思っていると… (もちろん書かない。客席の数名は椅子から飛びあがっていた)
稀代のホラ吹きで、同時に金を稼ぐことにかけてはとてつもない自信に溢れたHowardの語りにノせられたらもうお財布はすっからかんで絶対に戻ってこない、そんなかんじに消えてしまう135分で、得したのだか損したのだかわからないあっという間の - であることは確かかも。 いや、こんなふうに書いている時点で既にじゅうぶん騙されているのかも、とか。
Safdie兄弟のお父さんは実際にDiamond DistrictでHowardっていう人に仕えて働いていて、彼から聞く嘘だか本当だかわからないお話がおもしろくて、とインタビューでは言っていたので、ひょっとしたら本当にあったことなのかしら。ぜんぜんありそうなのだけど、伝説のようなおとぎ話のようなブラックユーモアのような奇妙なツヤがあって、Diamond Districtのある47th st界隈の、あそこだけ隠れ里のようにして浮かんでいる - どうやって儲けて儲かって生き残ってきたのだろう - っていう不可思議な雰囲気とうまくはまっている、というか、はめられる、というか。
とにかくAdam Sandlerがどれだけ恐ろしい強度と狂気を湛えた俳優であるかがついに晒された(みんなわかっていたよね)、と言ってよいのではないか。 ”Joker”のJoaquin Phoenixよりもよっぽど変幻自在で油断ならなくて危険で、どうしたらよいかわからない状態に持っていかれてしまうの。(いや、コメディ映画での彼もやっていることは同じなのかも、とふと思ったり)
Safdie兄弟とAdamは先週新作短編を公開していたが、あんなふうにどんどん出していってほしい。
これ、見たのはデジタル上映だったが、35mmで見た方がよいかも(Prince Charlesでだけ35mmでやってる)。宝石の怪しいきらきらとか、昔のB級犯罪映画のやばめの輝きに溢れているから。
1.19.2020
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。