5.02.2019

[film] Ash is Purest White (2018) - 江湖儿女

4月27日、土曜日の午後、CurzonのBloomsburyで見ました。 この日がたしか英国公開の初日で、でも上映館数が少なくてすぐ消えてしまう可能性があるから、とっとと見る。邦題は『帰れない二人』。帰らない、ではなくて、帰れない。

ジャ・ジャンク―の前作 - “Mountains May Depart” (2015) - 『山河故人』- 『山河ノスタルジア』は見ていない。たしか。

00年代の初め、炭鉱の町、大同市は石炭価格の下落で寂れかけていて、そこでやくざをしているBin (Liao Fan -廖凡)がいて、恋人のQiao (Zhao Tao - 趙濤) がいて、Binの親分が突然殺されたりきな臭くなってきたし、この町にいても先がないかんじなので、Qiaoはふたりでここを出よう、というのだがBinははっきりとは応えない。ある晩車で帰る途中、バイクに乗った若者たちが襲ってきて、最初はBinもなんとか相手しているのだが数が余りに多くて見ていられなくなったので、Qiaoが拳銃を手にして何発か空に向けて撃つ。(ここの緊張感、とんでもなし)

銃の所持は違法なのでQiaoは尋問されるのだが断固黙秘を貫いたので5年間収監されて、出所した彼女は彼が住んでいるらしい湖北に(あの河を渡って)向かい、彼の消息を知る知人のオフィスに行くと女性が出てきて、いま彼はわたしの彼なんだからもう来ないで、彼はここにはいない、という(でも実際には扉の陰にいた)。

別れるにせよ彼自身の言葉でそれを聞きたい(獄中にいても一度も訪ねてこなかったし電話しても出なかった)というQiaoは、なかなかすごい手を使って彼を呼びだして対面する。
わたしはあの時あなたの命を救ってそのうえ5年も監獄に入ったのになんで来てくれないし反応しないのか、とQiaoが問い詰めても、Binはもう今の自分は昔の自分じゃない、しか言わないの。

諦めて大同に戻る列車で、UFOを見るツアー会社を立ち上げようとしている変な男と知り合い、一緒にやらないかと誘われて少しなびくのだがやっぱり無理、と列車を降りると空の彼方にはUFOが..

そこから更に数年が経って、大同にいるQiaoはBinから連絡を受けて迎えにいくと彼は飲み過ぎで卒中を起こして車椅子のひとになっていて、昔の賭場に連れていって昔の仲間と再会させるのだが、やはりもう昔の彼とは違っていて、Qiaoが鍼治療を受けさせて少し歩けるようになるとBinは幽霊のようにすうっと出ていっちゃうの。

という、10数年に渡る濃いんだか薄いんだかよくわからない二人の恋の物語。ふたりがキスするところもハグするところもAgnèsの映画みたいに延々議論することも出てこない - ほとんど会話なし。 唯一、ふたりがつきあいだした頃、原っぱでQiaoがBinに銃の使い方を教わった時、Qiaoが火山の灰はものすごい高温で焼かれるから真っ白なのよね、という – 英語題”Ash is Purest White”はここから – すごく素敵なシーンがあって、ふたりの絆のありようが凝縮されて描かれるのはほぼここだけ。

あとはQiaoが女スリにやられたり、バイク男をだましたり、UFO男にだまされそうになったり、そこにUFOが飛んできたり、というしょうもなめのエピソードが重ねられるのだが、このシーンがあって、Qiaoのあのほとんど笑わない顔があると、ものすごく煮詰められた、それ自体が火山で焼いて蒸してを3回繰り返して粉にしたような愛の話になっていると思った。

特に最後、戻ってきたBinに対してQiaoが面倒をみながらも零度の冷たさではっきり言い放つ「あたしはもうあなたのことはどうとも思っていない」がすごい。わたしの思いはあの火山の、あそこでとうに灰になっているんだから。わかってるんだろうな、って。

Zhao Tao - 趙濤のうしろ姿も含めた震える輪郭とその存在感はほんとに”Ash is Purest White”としか言いようがない、粉で、結晶で、輝く光で、まだ熱は燻っていて、そんな彼女の女性映画としてすばらしいの。

ラストのあの映像もー。

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