9日の木曜日の晩、Royal Festival Hallで見て聴いた。チケットを取ったのが1年以上前だったので危うく忘れるところだった。
Philip GlassがBowieのベルリン3部作にインスパイアされて作ったオーケストラ楽曲、92年に作られたNo.1 (Low) – 42分, 96年に作られたNo.4 (Heroes) – 50分の後に、ヨーロッパ初演となるNo.12 (Lodger) - 45分を。ワールドプレミアは1月にLAでJohn Adamsの指揮で行われて、でもこのときはAdamsの楽曲との組み合わせで、ベルリン3部作を一度に一挙演奏するは初めてではないかしらん。
演奏はLondon Contemporary Orchestra、指揮は最初の2つがHugh Brunt、新しいのだけ指揮はRobert Ames、ここにオルガンのJames McVinnie、ヴォーカルのAngèlique Kidjoが加わり、オルガンとヴォーカルはLAの初演時と変わらず。 演奏前の18:30から、下のロビーのとこでPhilip Glassのpre-performance talk(無料)があって、ものすごい人だかりで、19:30からの演奏のときはGlassさんも2列くらい後ろに座っていた。
演奏を聴きながらなんで彼はこれをシンフォニーに組み上げたのか、ていうのと、そもそもベルリン3部作ってどういうものだったかしら? ていうのを考えていた。
“Station to Station” (1976)から映画“The Man Who Fell to Earth” (1976)での"The Thin White Duke"というペルソナをぜんぶちゃらにして、海の底のSubterraneansとしてひとり孤独に”Be my wife”と呟いたA面と、(今にして思えば)Post rockとしか思えないヒトの消滅した世界を表したB面と。
“Low”のA面のパーカッションの鳴りはMadnessの誰か(だったっけ?)が正しく言っていたように、あの爆竹こそが自分にとってのパンクで、それくらいの重要作なのだが、3楽章からなるシンフォニーは”Subterraneans”, “Some Are”(オリジナルには未収録), “Warszawa”のB面の3曲をモチーフにしていて、でももちろん単純にメロを追うなんてことにはなっていない。 圧倒的な音の肌理とダイナミズムの間に織りこまれ、その隙間で点滅する魂のありようをなぞるかのように、Glass特有の緻密な音の壁が築かれる。
"Heroes" (1977)は6楽章 – というより6曲からなるピースで、”Low”よりは弾んで震えてダンサブルで、最後の2曲のハープや鉄琴の鳴りはすばらしかった。これも、ここから”Heroes”を思い起こすことは難しいくらい練り上げられたものになっていた。最後のストリングスはちょっとTony Viscontiしていたかも。
そしていよいよ”Lodger”。 これは他とは違って”Symphony No. 12 (Lodger) for orchestra & organ - from the music of David Bowie and Brian Eno”というタイトルになっている。それは曲を作るのにEnoがOblique Strategiesを使っていたり、Glassが曲を準備しているときこれらの詞を抜きに考えることができなくなってきたこととかいろいろ(あとこれはベルリン録音ではないとか)あるようで、その辺はここに↓
https://www.latimes.com/entertainment/music/la-et-ms-philip-glass-lodger-20190109-story.html
というわけで”Lodger”の6曲 - “Fantastic Voyage”, “Move On” , “African Night Flight”, “Boys Keep Swinging”, "Yassassin", “Repetition”, “Red Sails” - がこの順番でAngèlique Kidjoさんの深くうねる声で歌われた。(ここで選ばれなかった曲も別のかたちでシンフォニーにする可能性はあるらしい)
改めて歌詞を読んでみれば世界の間借り人として、すべては風の中、というロストハウス状態がすてきで、曲は背後のパイプオルガンの荘厳な、右に左に触れまくる重低音と、それに絡むパーカッションの乱れ打ち、その合間に雑草のように生えて端からなびいていくストリングス、この3者のアンビエンスが見事で、これを現代音楽と呼んでよいのなら、こんなの聴いたことない、くらいにスリリングでかっこいいやつだった。
成り立ちも構成も”Low” - “Heroes”とは違って、収録曲のカバーをやっているのとも違う。 間借り状態のまま旅立ってしまった魂に向けて、別の間借り人が犬笛で呼びかけている、そんなかんじ。
これと直接の関係はないけど、8日の晩、隣のBFIで月1回くらいでやっているトークイベント”Soundtracking with Edith Bowman”にゲストとしてMax Richter氏が来たので行ってみた。
いろんなゲストを呼んで映画のサウンドトラック作成・構成の観点から話を聞く、というBFIのシリーズ企画で、これまで彼の手掛けた映画音楽 – こんなにあったなんて知らなかったけど – “Waltz with Bashir” (2007), ”Miss Sloane” (2016), TVの”Black Mirror” (2016), “Mary Queen of Scots” (2018) - これの音楽も素敵だったよねー - などの抜粋を流して解説していく。 そんなやかましく鳴っているわけではないのにダイアログと背後の音の交錯は細かに計算されているようで、すごいな、って。 最後は誰もが納得の”Arrival” (2016)のオープニングのとこで、音に注意して聴いてみると改めてのけぞる。
で、今はちょうどJames Grayの次作 - SFだって! – “Ad Astra”の音楽を終えたところだそう。楽しみー。
5.11.2019
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