まだNYのが残っているのだが、台風が来る前にこっちを書いてしまおう。
8日の日曜日、ものすごく暗澹とした気分、スポーツなんか、人類なんかみんななくなっちゃえ、なかんじで新宿に行って、みました。 見てよかった。 晴れ晴れと爽やかな気分になって救われた。
最近の邦画をすみからすみまで嫌いになっている自分にとって、唯一待望のやつだった。(首長竜ですら見るのわすれた...)
理由はよくわからない。 けど、自分にとって青山真二の映画は、洋楽ばかり聴いていた80年にルースターズが横から刺さってきた、あのかんじと同じなのである。
原作は読んでいないです。
下関のあたり、河口付近で、潮の干満で水位が変わって、光散り具合も変わる、そういう町に住む17歳の男の子が昭和の最後の夏、実の母を含む女衆に寄ってたかって去勢されて大人になって、昭和天皇が死んで。 そんな青春映画、だった。
宣伝文句にあるようなおどろおどろした暴力を孕んだ暗さや渦巻きからは遠い、拍子抜けするくらい人々はみなじゃりじゃりからからしていて、それと対比して夏の匂い、河口の匂い、蝉や鳩の声、水面に反射する光、すさまじいどしゃぶりの強さと暗さ、それらが目の前にぎらぎらと迫ってくる。 よく知っている、浸ったことのあるどんづまりの夏。 そういう場面設定のなかで描かれるヒトの性と暴力は、動物の捕食、鰻の一閃みたいなもんで、どういったらよいのか、リアルだけど、ヒトがそこに求めるようなリアルがそこにはない、というか。 それを本性と呼ぶのであればあまりに動物っぽい、というか、動物なんだろ、というか。
主人公の遠馬(菅田将暉)には友達がいなくて、もう離縁している実母(田中裕子)と、父(光石研)と、父の後妻(篠原友希子)と、幼馴染の千種と、そこらのガキと、それくらいしか周りにヒトはいない。(あとはアパートのベランダにいる植物みたいな女と)。
遠馬は寝転がって読書はするけど、TVも見ない、映画も見ない、音楽も聴かない、友達とつるんでどこかに行くわけでもなく、千種と神輿蔵でセックスをするか、川に行って釣りをする(釣竿は2本)か、ひとりでふらふらするか、それくらいしかすることのない夏休み。 こいつのあたまのなかでは、間違いなく「恋をしようよ」ががんがん鳴っている。
セックスのときに暴力をふるう、ふるわないと気持ちよくなれない、という実の父。 彼を嫌悪しつつも同じような性癖を持っていることに気づいた遠馬が女たちに囲まれていろんなふうにぼこぼこにされる。 最後のほうなんてほんといい気味だった。
それは遠馬だけではなく、父に対しても容赦ない。 蚊帳の向こうで性器を突き立てて吠えていた父が、おなじような金物の突起(義手)の一撃を腹に突きたてられて吠えて、倒れる(水面でくるっと回転する)。 そのイメージの強いことったら。 ゴヤの絵みたいな(たぶんそんなのないけど)。
田中裕子のお母さんがかっこよすぎる。 普段は枯れた風情でクールに魚とか捌いているのにコトが起こったとき、かちゃかちゃとたてる乾いた包丁の音、義手を抜くずぽっていう音と共にどしゃぶりが前面にやってきて、惨劇が起こる。 それは周到に準備された情念の復讐劇というより、魚を捌くように、鰻を仕留めるようにやっちゃうの。 それを遡って「あの人」(テンノー)のせいにしちゃうところも。
川縁の鷺、魚、田螺、縄跳びの縄、川の音、蝉の声、彼のなかで何かが終わった夏に再び現れてくるこれらの風景は、デジャヴでもノスタルジアでもなく、現在に喰いこんでくる楔として、不穏な予知夢として反復されていくに違いない。 "The 400 Blows"や"Quadrophenia"の最後に現れてくる海のように。 押して - 引いての干満を際限なく繰り返すばかりで決して抱きとめてはくれない河口のように。
彼のような昭和の少年の(これからの)物語が、「いつも繋がっていないとしんじゃう」最近のガキにどんなふうに適用しうるのか、少し考えてしまうのだが、お上のほうが思いっきし「昭和」を復活させたがっている今日この頃、どろどろの共喰い戦は続いていくのかもしれない。 これを見た今となっては、そんなの好きにやってろ、ないのだが。
あとは食べものだよね。 鰯だか鯵の丼はあんなふうに猫の餌みたいにほれ、って出されるものだったし、鰻の頭はオトナだけが得意そうに頬張るものだったし、昼間のそうめんはあんなふうに丸卓を囲んでいただくものだった。
音楽は、静かなアコギのアルペジオとホワイトノイズとして襲いかかってくる蝉や土砂降りの音がぎすぎすと攻防を続ける、そんなふうで、こっちも一筋縄ではいかないのだった。
というわけで、この映画だけは、大画面で浸って冠ってください。
9.14.2013
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