4.24.2023

[film] Illusions perdues (2021)

4月15日、土曜日の午前、ヒューマントラストシネマ有楽町で見ました。
邦題は『幻滅』、英語題は”Lost Illusions”。2022年のセザール賞を7部門で受賞している。

原作はバルザックの『人間喜劇』の『幻滅 - メディア戦記』 - 翻訳本のタイトル - から、主人公Lucienがしょんぼりと田舎に戻る第二部まで。監督はXavier Giannoli。

1820年代のフランス、革命だの恐怖政治だのにいい加減飽きてしまった世間では貴族だの王政だのが蘇ってだらだら享楽的な一攫千金バブルの時代が来ていて、主人公のLucien (Benjamin Voisin)はアングレームの田舎の印刷所で働きながら自作の詩集を刷ったりして成功を夢見ている青年で、地元の貴族夫人のLouise (Cécile de France)はそんな若い彼に惹かれて集会で朗読させたりするものの村人の反応はさっぱり、がっかりする彼を慰めたりしているうちにふたりは恋におちて、その勢いのまま駆け落ちするようにパリにでる。

安いアパートを借りてもらってこれからだって張りきるLucienだったが張りきりすぎて田舎者丸出しの格好でパーティに出たりしたものだからLouiseも目を合わせてくれなくなり、寝取られた夫側の復讐も挟まって援助を絶たれ、自活するか畳んで田舎に戻るかしかなくなってしまう。

そんな時に当時乱立していた中小新聞社 - 社主は字が読めないらしいDauriat (Gérard Depardieu) - のやり手編集者/ジャーナリストのLousteau (Vincent Lacoste)と王政派がバックにいるらしい作家Nathan (Xavier Dolan)と出会い、ひょっとしたら分かり合える連中もいるのかも、って彼らに近づいていろいろ教えて貰いつつ、もともと文学や詩には自信があったので貴族連中を風刺でコテンパンにするスタイルでのしあがり、大衆演劇で人気の出始めた女優のCoralie (Salomé Dewaels)と親密になり、書いた端からお金が入ってくるのでそれらを全部彼女とのつきあい~結婚とか自身の貴族位獲得のためのロビー活動などに湯水のように使っていくのだが、いろんな情報 - 噂、口コミ、醜聞などが渦を巻くなか、自分も別アカウントを使ったりして書き分けたりしていると、日頃Lucienのことをよく思っていない連中とかの間からそういうのがばれたり中傷されたりしていくし、Coralieのキャリアを賭けたラシーヌの上演もはめられて失敗して…

そんなにわかりやすい単純な自滅/転落話ではなくて、背後で糸を操っていそうなMarquise (Jeanne Balibar)とか、劇場で観客をコントロールするSingali (Jean-François Stévenin – これが最後の映画出演となったそう)とか、いろいろ雑多な連中が出入りして日々お祭りのように騒がしい新聞社の内部とか、怪しげな連中が場面局面で群れで層をなしてはうようよ現れては消えて、原作は更にわけわかんなくなるくらいに濃い面々の泥沼(でも喜劇)なのだが、映画は150分あっても画面も含めて結構きれいに整理されて、そこらにある陰謀モノのTVドラマのように見えなくもないところがやや残念かも。(理想はシーズンを分けたTVシリーズかなあ)

単に田舎から勇んで都会に出てきた彼 – 詩人(自称)&母方は貴族だった(自称) - の夢が端から崩されて「幻滅」する話、だけではなく、文学や理想主義のあり姿が資本主義の、お金の、大衆の倫理にのまれて為すすべもなく瓦解して虫食いにされていく話、それをやっちまえの熱狂的な大衆メディアが下支えしたり煽ったりしたこと、などが仔細に描かれていて、それは約90年前にルカーチがこの小説の先進性を讃えていることでも明らかだし、この映画の宣伝文句にもあるように今のSNSを使ったマーケティングとメディアの乗っかりようなどに吐き気がするくらいよく似ている、というか200年前から人類は同じようなことを延々やって揃って右に左に揺れたり靡いたり、大戦も含めてものすごく人が死んだりしているのに、あまりに厚顔で相変わらずすぎて「幻滅」どころじゃない絶望しかないんだけど、って。

映画については、美青年Lucienの夢と挫折を描く、ということに関しては「幻滅」というタイトルがきれいにはまって、”Summer of 85” (2020)でもやってやられてぶりが見事だったBenjamin Voisinがそんな生き様を不敵に演じていてちっともかわいそうに見えないのもよかった。

こういうのを見てしまうと、やっぱり自分でZineでも作るか、になるかも。ならんか..



最近は体力が落ちてレコードプレーヤーのところに180gのとかを運ぶのすら面倒になってしまったので、少しだけCDに戻りつつあったのだが、Record Store Dayは年一回のお祭りだししょうがないか、って以下のようなのを買ってしまったのだが、トータルでびっくりの金額になってしまったのでもうやらない。 というのを毎年繰り返しているねえ。

Suede Demo, Haircut 100 - Live 1983, The Fall: Live 1977, Prefab Sprout, The Pogues - The Stiff Records B-Sides, Slits - Rough Cut,  Sunn/Boris - Alter,  Taylor Swift,  The Specials - Work In Progress, Swell Maps C21

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