4.09.2023

[film] Pour don Carlos (1921)

4月2日、日曜日の午後、日仏学院で見ました。
ここの“Irma Vep”特集で見る最後の1本 -『ドン・カルロスのために』 。
昨年春の国立映画アーカイブでの「フランス映画を作った女性監督たち」特集で見逃していたやつでもある。

原作はフランスの小説家Pierre Benoît (1886-1962)の同名小説 (1920) - この人、映画の原作本もいっぱい書いているのね。 Louis Feuilladeの”Les vampires” (1915-1916)でIrma Vepを演じたMusidoraが製作、監督、脚色、主演している。(監督にはもうひとり、Jacques Lasseyneという名前があるが、原作者から指名されたカルリスタ派の元軍人でこの映画に関してはほぼなにもしなかったらしい)

あまり情報がないIMDBには彼女には短編を含めて6本の監督作がある(ただ、Webを見ていくと諸説あり)ようで、これは4作めの監督作。前の3作は友人だったColetteとの共同制作で、”La vagabonda” (1918)にはColetteの原作があるし、”La flamme cachée” (1918)はColetteがシナリオを書いているって(でもぜんぶ失われている)。彼女の出演作の”Minne” (1915)も、原作のクレジットは”Willy”ってあるけど、こいつはColetteの名前を奪っていた夫のあいつだし。 Musidoraのあれこれ、少し調べてみたらすごくおもしろいの。Alice Guy-Blachéと同じくらいの重要人物ではないか(なにを今更)。

スペインのバスク地方で1833年から1876年までスペインの王位継承権をめぐりドン・カルロス派(カルリスタ)とフランスのイザベル2世派が争った内戦 - カルリスタ戦争でのお話、なのだが、この戦争の史実がどう、とかバスク地方の地政がどう、とか、一瞬しか姿を見せないように見えるDon Carlosって? といった要素は、物語上そんなに重要ではないように見える - プレミア前のオリジナル版は3時間あったそうなので相当削られてしまっている印象も受ける。

カルリスタのAllegria (Musidora)が副知事を務める地域に若い新任のOlivier de Préneste (Stephen Weber) がフランス側から派遣され、新婚生活は向こうで、と婚約者のLucile (Chrysias)もうきうきついてくる。

そこの副知事であるAllegriaの役割と策謀は彼らを骨抜きにしてカルリスタの側につかせることで、彼女はぱりっとした男装の軍服で表情も硬く威厳たっぷりかっこよくて、初めからふにゃふにゃの若いふたりを陥れるのなんてたやすいことのように思えたし、実際に簡単にこちら側についてきてくれる - Lucileと会うときのAllegriaのドレス! - のだが、まずいことにAllegriaは彼らそれぞれと会っているうちにふたりのことが大好きになって(ふたりといっぺんに)恋に落ちてしまったらしい。

やがてフランス側が攻勢を強めてカルリスタ派が劣勢にたってくると、彼女は軍服を捨てて髪はぼさぼさ(ややRobert Smithふう)、ラフでワイルドな戦闘モードに切り替わり(コスチュームの使い分けの巧みなこと)裏切りや逃走や暴虐や暗殺がふつうに行われている戦場を渡っていくのだが、OlivierとLucileのふたりを敵方にそのまま置いていくことはどうしてもできなくて、彼らを無事に逃がした後で ー。

Musidoraの目、彼女の強い眼差しは”Les vampires” のIrma Vepでもずっとそうだったように、相手が敵であれば「あなたになにをしてくれようか?」と不敵に問うように見つめ、相手が味方であれば「わたしがいるから大丈夫、一緒に来て」って安心させて、つまりは吸血鬼そのままにぴったりと張りついて頭の奥まで寄り添ってくるので、画面に出てくる彼女を、彼女の目をずっと追いかけていくことになるのだが、この映画のラストは本当に悲しい。彼女がどんなふうにその最期を迎え(あの手足!)その目を閉じて埋葬されたのか、忘れないでいて、って訴えてくる。そして、忘れられなくなるの。

Irma Vepが”Vampire”のアナグラムから名前を取って、その組織に殉じた女性を演じたのと同様に、ここでも「ドン・カルロスのために」と言いながらIrma Vepよりも遥かに複雑に繊細に、愛した人たちと組織と、戦争の大義などに引き裂かれながらも最後まで愛に生きようとした女性の像が残る。 機会があったらもう一回見たい。

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