4.13.2023

[film] Golden Eighties (1986)

4月7日、金曜日の晩、『シャンタル・アケルマン映画祭 2023』の初日に見ました。
『ゴールデン・エイティーズ』、上映後に坂本安美さんのトーク付き。 以下、トークで話されたことも参照しつつー。

それにしても、昨年の特集のときの人気にもびっくりしたし、同様の映画祭が「今年も」行われて、この回の上映もほぼいっぱい、日曜のトーク付きの『一晩中』も売り切れていた。 この人気はなんなのだろう? よいことには違いないのだが、どれも決して明るい映画とは言えない(なんか気持ちよい、はあるかも)し、今公開されている邦画なんかとはなにもかも違うし(→だからだ)。 自分の部屋をまるごと爆弾にして街をふっとばす映画から始まった彼女の冬の旅、やっぱり見たくなるの。何度でも。

この作品は、日本で封切りされた時に見たし、2016年の日仏学院のカイエ・デュ・シネマ週間「シャンタル・アケルマン追悼特集」でも見たし、ロックダウン中のロンドンでも見たし、彼女たちが資金集めのためにLAに行ったときのすごくおもしろい短編”Family Business” (1984)も見たし。

もっと商売気のあるものをやれば、とJeanne MoreauからJean Gruaultを紹介されて(他にクレジットされているのはPascal Bonitzerなど)、リハーサルシーンを収録したデモ/プロトテープ - ”Les Années 80” (1983)を作ったあとに、テクニカラーのMGMミュージカルを目指して本作を作ってみる。

舞台は地下に降りたところにあるショッピングアーケード – モデルはChantalの両親が勤めていたというGalerie Toison d'Or – mapを見るとまだある – のファッションブティックとヘアサロンとコーヒーショップ。コーヒーショップの店員Sylvie (Myriam Boyer)はカナダに渡った恋人のことをずっと思っていて、両親のブティックを手伝っているRobert (Nicolas Tronc)は、向かいのヘアサロンのLili (Fanny Cottençon)にめろめろの盲目になっていて、Liliは店のオーナーで妻子持ちのJean (Jean-François Balmer)に囲われていて、そこの店員のPascale (Pascale Salkin)とMado (Lio)はRobertに憧れていて、Robertの母のJeanne (Delphine Seyrig)はかつて戦後収容所を出たところで恋に落ちた米兵のことを思っているとその彼 – Eli (John Berry)が現れて…  こんなふうに主な登場人物は恋にやられているか、恋にやられた状態を想って悶えているかで、そうでない連中は彼らの周りでひたすら歌って踊る。

RobertがLiliと一緒になる/なりたいようって、だだをこねてもだめなので拗ねてMadoと結婚しよう、って宣言して結婚式の手前まで行ったところでやっぱりLiliに手を出して式が潰れるのと、Eliから一緒にここを抜け出そう、って誘われていたJeanneはやっぱりムリ、って返す。最後に彼女が傷心のMadoを連れて地上に出てみると新たな恋人を連れたEliが。

格言も教訓もない、どれだけ華やかに惚れたキスした恋をした、って歌って踊って煽っても、うまくいくのもあればいかないのもある – 誰もが他人の恋をそうやって眺めて噂して、それだけの、あたりまえの、天に昇るハッピーエンディングも、出口なしの孤独な生き埋めもないけど、次のステージはあるよ、っていうのを「人生」みたいなとこまで敷衍しないで受けいれて鮮やかにスライスしてみせる。そんな一日の終わりを淡々と振り返って受けいれる軽さ。

これのひとつ前に作られている長編『一晩中』(1982) - 9日の午後に見た - 後だと、これとの対比でいろいろ思ったりもした。あの街の三地点を繋いだ暗がりで紡がれたいろんな出会いと別れのダンスが明るいアーケードの3店を結んだきらきらのダンスに転換されたとも言えるし、ダークな70年代からカラフルでゴールデンな80年代、というのもあるし、暗くても明るくてもそこだけ浮かびあがって電気のようななにかが空中に充満してある - 人々の生きているかんじ、は共通していないだろうか。

そしてその空気感はChantalの母 - アウシュビッツを生きのびた – の底なしの孤独を抜けた先にあったものにちがいない、と思ったのと、”News from Home” (1976) - 『家からの手紙』で周りの近況を細々と伝えながら、どんなことでもいいのであなたの近況を教えて、手紙を書いてってずうっと書き送ってくる「母」のせわしなさもあるな、って。そして、その反対にいる「夫」と「父」の薄さ、どうでもよさときたら。

冒頭の、すたすたまっすぐに歩いていって交わることのない女性たちの早足、これが黄金の80年代を貫く速さと軽さで、それだけで十分、でもあるの。

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