12.01.2022

[film] The Menu (2022)

11月20日、日曜日の午後、シネクイントで見ました。

孤島にあるイノベーティヴ系のガストロノミーにがんばって予約を入れたり会社の経費で入れたりフード・クリティックだったりの人々が船に乗ってディナーに訪れて、そこで経験するめくるめく饗宴と狂乱と。 ホラー、なのかもしれないが、コメディのようにも見ることができる。 プロデューサーにはAdam McKayとWill Ferrellの名前があるので、なるほどー、って。

ディナーに臨むほうは、軽くひとり$2000くらいかかるやつなのでぜったいにすごい経験にしようと気合をいれてやってくるし、ディナーを供するほうは、これまでに培った評判と名声と期待に応えるべく、パーフェクトでラグジュアリーな経験とサービスを惜しみなく一糸乱れぬフォーメーションでこれでもか、って見せつけようってがんばる。

この全体の絵図がなんとなく変なものであること、しかもその両者を挟んだ中心にあるのが、すごい色だったり形だったり煙を吐いていたり膨らんだり縮んだりスポイトや実験器具で食べたり、「イノベーテイヴ」だったり「フュージョン」だったり「バイオ」なんとかだったりの想像をはるかに超えた「プレゼンテーション」とか「味覚体験」だったりして、それを戴いたからといって角だの羽だのが生えたりするわけでもなく、お腹はたぶんいっぱいになるけど、翌日にはそれもへっこんで、なんか慣れないもの食べたなー ってお茶漬けをかっこんでいそうな - ネガティブに見てしまえば。

さらにシニカルに見てしまうと、ここでの「美食」とサービス体験のためにあちこちにものすごいストレスが掛かったり統制がしかれているはずで、それらは実際のレストランなどでも既に報告されていたりするし、こないだの”Boiling Point” (2021)にも描かれていたとても不健康なやつだと思うし。 そこまでしてやる?.. というものではないか。人によっては。

映画は、レストラン”Hawthorne”を仕切るオーナーシェフ – 多くの部下を従えた絶対的権力者 - Julian (Ralph Fiennes)のところにお食事にきたTyler (Nicholas Hoult)とMargot (Anya Taylor-Joy) - 彼女は当初予定していた相手ではなかったことが明らかになる - カップル、その他、俳優とか批評家とかビジネスマンとか一癖二癖の客たちがアミューズブーシュから始まるコースのひとつひとつを戴きながら想像もしていなかったとんでもない目にあっていく、痛そうなのもあるのだがそれがあんまし怖くはなくてどこかおかしいのはどういうことなのだろう。

なんか、そういうところに来るひとは主-従関係に浸りにくる、というのもあるのではないか。 医者とおなじでシェフはさじ加減ひとつで簡単に人を殺すことができる、そういうパワーをもった人に高いお金を払って船に乗って会いに行く、その滑稽さがまずあって、そこで変なの、って笑ってしまうとRalph Fiennesの挙動ひとつひとつがおかしくてたまんなくなって、「おいしくないから帰るわ」ってたったひとり彼と対峙するAnya Taylor-Joyの不良っぽさが素敵に光ってしまうのと、最後は思ったとおりのあーあーになってしまうのと。

欲をいえば料理一皿一皿をもっとちゃんと見せてほしかったかも。イノベーテイヴだなんだと能書きたっぷりであるからには、どんな食材(or 非食材)をどんな器具だの装置だので加工したりフュージョンさせたりして、なにが/だから/どうしておいしいと言えるのか、を説明してほしいしそこにシェフの圧が加わると道端の馬糞だっておいしくなるよな、って(昔のスネークマン・ショウのネタにあったむしゃむしゃ食べるあれを映像でやってほしかった)

終盤にでてくる、作っているところが見れるチーズバーガー、どうしても”Chef” (2014)のグリルドチーズサンドが浮かんできてしまう。映画の方向としては正反対の両者であるが、後者の方がよりおいしそうに見えたかも。

(料理のコンサルタントはDominique Crenn - 彼女はSFのLuceにいた人なのね)

ああいう(イノベーティブな)のって本当においしいのか、(広義の)味覚の未知の/無意識の領域を開拓しているのかもだけど、確証は持てないし開拓したからなんぼのもんやねんー、って。結局肥えた貴族の道楽にしかならなくて、そう思ってしまえばあの結末はあれでよいのかも。
 
こんなふうにものすごくあれこれ広げていけそうなネタはいっぱいあるのにちょっと変てこなサスペンスホラーのようなとこで終わってしまったのは勿体なかったかもー。

自分の経験したレストランでの恐怖、というと90年代のDanielとかBouleyでの延々終わらないデザート攻め、というのがあって、もうお腹いっぱいなのに次々と、5皿とか7皿とか出てくるの。負けたくない(なにに?)しおいしいので食べてしまうのだが、Danielのときは食べ終わったら午前1時過ぎてお腹ぱんぱんで動けなかった。 あんなのもうできないわ。
 

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