12.08.2022

[film] Guillermo del Toro's Pinocchio (2022)

11月26日、土曜日の晩、ヒューマントラストシネマ渋谷で見ました。
どうでもいいけど、「ヒューマントラスト」ぽいお話かも(嘘)。

Netflixでは9日から見れるようだが、これは映画館で見ないと、なやつだと思った。Guillermo del ToroとMark Gustafson- “Fantastic Mr. Fox” (2009) -の共同監督 + Jim Henson Companyによるストップアニメーション & ミュージカル。音楽はAlexandre Desplat(歌詞はRoeben KatzとGuillermo del Toroの共同)。

実写で多くのクリーチャー(のどちらかというと悲劇)を創造してきたGuillermo del Toroにとってこれが悲願の待望のプロジェクトだったこと、子供に向けられた教訓もの - 嘘をついたら鼻が伸びちゃうよとか – ではないことははじめから明白なのだった。約2時間はちょっと長いかもだけど。

原作はCarlo Collodiの”The Adventures of Pinocchio” (1883)で、舞台を(19世紀ではなく)ファシズム台頭期の1930年代のイタリアにしている。ついこないだ公開されたDisney - Robert Zemeckis – Tom Hanksの実写版の方は見ていない。

勤勉な大工のGeppetto (David Bradley)は息子のCarloと幸せに暮らしていたが、Carloは教会に「完璧な」松ぼっくりを取りに行ったところで空爆で亡くなってしまい、Geppettoが悲しみに暮れて酔っ払うなか、何かに取り憑かれたようにCarloの墓の傍らにあったでっかい松の樹から木彫りの人形を作って、これがPinocchio (Gregory Mann)になって、その一代記を旅するコオロギであるSebastian J. Cricket (Ewan McGregor)が弁士のように歌ったりナレーションしたりしていく。

やがて木彫りの人形は、翼をもった樹の精(Tilda Swinton)から命を貰って自分で勝手に動くようになり、同様にその姉であるDeath (やはりTilda Swinton)からはいくら死んでも死なないやり方を教わって、善悪の区別もなんにも知らないのでサーカス団のCount Volpe (Christoph Waltz)と手下のお猿(Cate Blanchett)の言われるままに騙されて地の果て海の底まで旅していく。

命を授かったPinocchioはテリブルな野生のガキで誰にも制御できなくて、周囲から変な目で見られてサーカスでサルと同列扱いになるのだが、ここに厳格な役人のPodesta (Ron Perlman)と忠実な息子のCandlewick (Finn Wolfhard)のきちんとした父子、更にその頂点に立つMussolini (Tom Kenny)が対比される(日本の戦時のにもそのまま適用可)。そんなPinocchioの上には爆撃された教会の木彫りのキリストがあって見下ろす。 これらの宗教や家族のありようの対置も、最後には生と死のそれに織り重ねられていく。

もうひとつは魂のこと。Geppettoの抜け殻になった魂を埋めるかのように樹人形の中に組み込まれる魂 – 更にPinocchioの中にはコオロギが住み込み、Pinocchioをのみこむ大魚(すてき)とかの果てのない命の入れ子構造 - があり、無垢と残酷さと狡猾さの間を何度も生きて死んでを繰り返し簡単には死なせてくれない。でもその反対側でGeppettoは亡くなって…

父子愛の話、というより、過剰な愛とその崩落が生みだした手製のモンスター/クリーチャーのお話、彼らは人の手によって、その欲望を満たすために造られたので死ぬことができない、でも造りだした本人(ここではGeppetto)は人間なので死ぬ、という決定的な溝と倒錯とそこに横たわるしょうもなさと、でもそれ故にそんな腐った人間どもは怪物となった君たちを愛するし必要とするのだ - ここにいてほしいよ、っていう。Guillermo del Toroの創作に向かうにあたっての宣言のような生真面目さ - よくもわるくも。

思い浮かべたのはやはりスピルバーグの“AI: Artificial Intelligence” (2001)だろうか。子を亡くした夫婦の愛の穴埋めとして持ってこられた機械がその持ち主から捨てられた後にたどる運命と孤独 – ずっと氷の底にひとり沈められていた彼にとっての「孤独」とは。

父と子、生と死、世界の果て、クリーチャーの呪縛に呪い(伸びる鼻)、こんなふうにいろんなテーマが盛大にぶち込まれ過ぎて魚のおなかの中みたいなカオスになっているところが賛否なのかもしれないが、これをクラシックの原作を使って木の人形劇にしたところはすばらしい。Pinocchioの木の造形と質感とかGeppettoの顔とか、あれ以外考えられないようなはまりようではないか。これが操り人形劇だったら.. ? とか少し考えている。

そしていつものようにちっとも売れそうにないけどよく聴くと実は名曲ばっかりのAlexandre Desplat の音楽と、それに乗って楽しそうに朗々と歌いまくるEwan McGregor – “Moulin Rouge!” (2001)以来では? - もとてもよい。Forceを使うコオロギにしてもよかったのに。

あと、海で巨大な海獣でもだしてくれたらよかったのになー。


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