11月21日、月曜日の夕方、ヒューマントラストシネマ有楽町で見ました。英語題は”The Five Devils” - 邦題は『ファイブ・デビルズ』。
新作ばかりを見るのが続くと、その慌しいかんじとか疲れ具合とか、って名画座で旧作を見るのと全く異なる気がするのは自分だけだろうか?
監督はArnaud Desplechinの”Ismael's Ghosts” (2017)やJacques Audiardの”Paris, 13th District” (2021)の脚本を書いていたLéa Mysius。 ポスターにある火柱に向かう女性たちとタイトルから魔女狩りみたいな話かと思ったが違った(いや、ひょっとしたらそんなに違わないのかも)。
山間にあるファイブ・デビルズという小さな町で水泳の先生をしているJoanne (Adèle Exarchopoulos)がいて、その横に小学生くらいの彼女の娘Vicky (Sally Dramé)がいる。教室が終わるとJoanneは湖に向かいVickyに脂のようなものを全身に塗ってもらってから20分経ったら教えて、と告げて湖に入っていって泳ぐ(ひー。冬っぽいのに)。Vickyはその脂の瓶にMom2とかラベルを貼っていて、家に戻ると彼女はいろんな匂いを瓶に詰めてコレクションしていて、ママが匂い当てクイズとかすると百発百中なのですごい嗅覚の持ち主であることがわかる。学校での彼女は髪の毛のことを「トイレブラシ」とか周りの子供たちから寄ってたかって虐められたり、ひとりぼっちなのでそんなことをしているのか/虐められたからそうなっちゃったのか、とにかくVickyはママの傍にずっと張りついている。
こんなふうにJoanneとVickyは仲良しだが彼女の夫でVickyの父Jimmy (Moustapha Mbengue)との関係はもう冷めていて、ある日彼が妹のJulia (Swala Emati)を連れてきて数日泊めると聞くと様子が更に変わって「やめて」と言っている。Juliaは刑務所から出てきて、しかも精神の病を患っていたようでJoanneとも過去になにかあったらしい。
やってきたJuliaはちょっとミステリアスで怖いかんじで、Vickyを見る目も少し変なかんじで、でもVickyがいつものようにJuliaの持ち物を寄せ集めて匂い瓶を作って嗅いでみると、そのままばたん、て昏倒して、気が付くと今とは違うどこか別の時間と場所にいるらしい。そこでVickyは明らかに若い頃のママとJuliaの姿を見て、若い頃のパパもそこにいたりして、JuliaはそこにVickyの姿を見ると驚いて声をあげたりする。
若い頃のJoanneとJuliaになにがあったのだろう? と興味をもったVickyが何度か匂いによって過去に潜るようなことを続けていくのと並行して、少し時間が経った今ではJoanneとJuliaは再会した時のとげとげしたかんじはなくなって少し近寄ってきたように見えるのと。
なぜVickyは叔母であるJuliaの匂いを嗅ぐと時間を遡って自分が生まれる前の世界に行ってしまうのか、なぜその場所でその時代なのか? なぜJuliaはVickyを見ると慄いてしまうのか? それらの問いは、自分はなんで生まれてきちゃったのか? はたして自分は生まれてきちゃってよかったのか? という問いになんとなく繋がっていくようなのがとても切ない。
JoanneとJuliaは愛しあっていた。それは誰にも自分たちにも止めることができないどうしようもないやつで、でもそれ故に孤立してしまって周囲に軋轢を生んで – "Love will tear us apart"のドラマが数年を経て家族にまで波及して、でもそれでも"Love"はなんとかそこに踏みとどまって手を延ばして再生しようとする。その鍵は大好きなあなたの匂いだったのか、って。くんくん。
偶然かもしれないけど、“Petite maman” (2021)-『秘密の森の、その向こう』で起こった不思議にとても近いような。ママの深い悲しみを感じ取った娘に見えてしまう、いや見えてしまうだけではなく、それに応えるかのように向こうからもやってくる何かがいる/ある。
フィルムで撮っているそうだが、画面の質感がとても素敵で、湖の冷たさ、Vickyのもしゃもしゃ髪、人が人を見つめて(嗅いで)ああその人だと思う、その場面場面が絵のように残る。撮影のPaul Guilhaumeさんて、脚本の方にも名前が入っているのだが、あまりそういうのってないような。でも言葉以上に表情の変遷がとても印象に残ることは確かかも。
12.02.2022
[film] Les cinq diables (2022)
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