12月9日、金曜日の晩、MUBIで見ました。
この日はMUBIでこれが見れる初日、だったので夜遅かったけど見る。邦題は『別れる決心』。
今年のカンヌのコンペティション部門に出品されてPark Chan-wookは監督賞を受賞している。
欧米でのPark Chan-wookに対する評価はなかなかびっくりなところがあって、”The Handmaiden” (2016) - 『お嬢さん』なんか、英国ではものすごくロングランされていた。たぶんだけど、彼の映画が表象するアジアンぽいエロとか湿気が欧米のはまる人にははまってしまうのではないか。で、この作品もそういう – Asian femme fataleもの、として受けたかんじがあるようなー。最初に見たポスターの、真横を向いてぼやけたPark Hae-ilの奥でこちらをまっすぐ見つめてくるTang Weiの目の力だけで。
釜山の刑事ヘジュン (Park Hae-il)と相棒のスワン (Go Kyung-pyo)は、退職した入国管理局員キ・ドス (Yoo Seung-mok)がよく登っていた山の麓で死体となって発見された事件を担当する。ヘジュンはずっと不眠症で、妻のジョンアン (Lee Jung-hyun)とは週に一度しか会わないくらい疎遠になっている。ふたりはキの若い妻ソレSong Seo-rae (Tang Wei) - 中国から移住してきて、韓国の言葉や会話にあまり馴染めていなくて、高齢者介護の仕事をしている – を聴取するのだが、彼女の手には引っかき傷が、足と胴体にはあざがあったりしたので、ふつうに彼女は第一の容疑者になる。
こうしてヘジュンはソレのアパートの前で張り込みをして、彼女を監視していくのだが、それに呼応するかのように彼女もへーきな顔で彼のことを追っかけるようになる。調べていくなか、ソレはヘジュンに不正な入国で韓国に来ていること、中国では彼女の母親が病の末期で頼まれて薬殺していること、母が亡くなる前に、満州で独立運動をしていた韓国の祖父が残した山を引き取りに行くよう言われたこと(だからここに来た)、などを語る。キがソレの不法入国に関わったことと、遺書と思われる手紙が発見されたことからキの件は自殺で、ソレは容疑者でなくなった、とヘジュンはソレに伝える。
こうしてヘジュンとソレは捜査員と容疑者の関係から離れてデートしたり密会したりしながら親しくなっていくのだが、そうやって近くになってみると、新たに隠滅された証拠とか、新たにわかってきた事実とかが見えてきたり、もともと不眠症で鬱の気もあったヘジュンは彼女への愛(誘惑?)と不信の間でへろへろの骨抜きにされていって…
事件の真相や真犯人や絡みあった謎を解いていくサスペンス、という(見方もできるが)よりも、それを口実に互いの真意や好意を探るほうに思惑が少しづつずれていったかと思ったらそれを利用するかのように証拠の隠滅や目くらましが為され、並行して新たな事実も見つかり、それでもいいや愛してしまったのだから、ってまぬけに突っ走ろうとする。 宿命の女にやられる典型的なダメ男のケースなのだが、女性の側に見え隠れしてもおかしくない悪意や好意があまりよく見えず、目をこらしてそこを見ようとすると別のものが見えてしまう、という所謂どつぼに嵌った、ってやつだと思うのだが、これでふたりが幸せになれたか、未来の幸せが見えるか、というとそんなでもなく.. というすべてにおいて中途半端でどこにも行きようのない中間状態のバランスの悪さ - 不信、猜疑心、誘惑、惑い、抱擁ときどき暴力、などが見事なカメラとか焦点とか明暗とか距離感のなかで浮かびあがってくるのがおもしろい。 ノワールに行けたらまだ楽なのかも。
“Decision to Leave”の”Leave”は単に「別れる」というより別れられなくてぐだぐだになってしまっている状態から逃れる、そんな関係から立ち去る、ようなかんじもあって、ヘジュンとソレは別れるのだが、やがてソレの新たな夫となった投資家の男がプールで死んでいるのが発見されて..
こんなふうに近づけは近づくほど止まらずに「真相」から遠のいていくかのような拗れようが劇的とはとても呼べない冷たいトーンと、どこまでも熱くならない/なれないまんなかのふたりの不均衡によって延々切り返されていって、最後の最後に”Decision”の重みが残って、それはとても苦く痛ましい。古い民話に触れたときに感じるなんともいえない哀しみのような。
主演のふたりは文句なしで、特にヘジュンの方のなんにもできないまぬけ男のかんじ、成瀬の森雅之みたいなー。
12.20.2022
[film] Decision to Leave (2022)
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