12月3日、土曜日の昼、イメージフォーラムで見ました。
“Mad God” (2021)を見たあとに歩いて向かって、向こうに”I’m donut?”のながーい列が見えたので少し並んでみたのだが上映に間に合わなかったので諦めた。くやしい。
Sergey Loznitsaのドキュメンタリー、邦題は『ミスター・ランズベルギス』。248分で間に10分休憩が入る。彼のドキュメンタリーとしてはこないだ見た“Babi Yar. Context” (2021) - 『バビ・ヤール』 に続くもの。
ソ連のペレストロイカの流れを受けるかたちで1989年から1991年にかけて起きたリトアニア(他のバルト三国も同様)の独立運動をリードしたVytautas Landsbergis(ヴィータウタス・ランズベルギス)。当時の生々しいアーカイブ映像と現在の氏へのインタビューを通して、あの運動はなんだったのか、どうして非暴力で- 死者は出ているが – この革命は実現されたのかを追っていく。 ナレーションもなく、最小限の字幕以外は入れないかたちで、映像とそこに出てくる人々に語らせていくスタイル。 放映用の素材を「わかりやすくする」ために字幕やテロップを入れまくり、インタビューにはわざとらしい吹替えや効果音をへーきでいれてしまう現代のニュース映像ではたぶん無理なやつ(あれほんとなんとかして)。
リトアニアの主権とソ連からの独立を訴えて実現しようとする政治組織サユディスが国内で立ち上がり、そこに当時国立音楽院の教授だったランズベルギス氏が加わって指導者となり、Mikhail Gorbachev(ゴルバチョフ)の施策に一見乗っかるかのようにここまでならやっていいよね?ほんとはあそこまでいけるよね?とかやっているうち、はじめのうちは余裕でにこにこしていたゴルビーから笑みが消えて、そんなことをしたら大変なことになるぞ、って警告のあと、実際に経済制裁とか官僚の更迭とか嫌がらせが始まるのだがリトアニアの民の勢いは止まることなく意思も固いままで、1990年3月11日、第一回リトアニア最高会議で議⻑に選ばれたランズベルギス氏がソ連に対して独立を宣言すると、向こうはいいかげんにしろよ、って首都ヴィリニュスに軍の戦車一式を派遣してきて閉鎖して占拠しようとして…
この辺の流れは革命の怒涛の勢いと熱情で一気に一挙に進んだわけではなくて、サユディスとか最高会議の場でもいろんな意見があるしでるし – 絶対にあったであろう修羅場での議論はあまり出てこないが - でもおそらくランズベルギス氏が揺るがずオーケストラの指揮者よろしく全体をまとめてあげて、ソ連側に対する態度も要求もきれいにシンプルに一貫していた。 ソ連は飼い犬がここまで激しく、しかし整然と歯向かってくるとは思わなかったに違いない。
現在の映像のなかで当時のことを振り返るランズベルギス氏の様子が素敵で、くしゃくしゃっていうかんじで笑いながら、でもやったのは自分じゃないよ(みんなでやったんだよ)、みたいな余裕。 インタビューで、ランズベルギス氏のことは文化と教養があるから信頼している、っていう市民の言葉があるのだが、ほんとにそうだと思った。政治家に文化と教養がない(あまりになさすぎ。なにあれ?)国はほんとに滅ぶよな、ってどこかの国をみて。
そしてランズベルギス氏だけではなく、最後まで抵抗の姿勢を貫いて崩さなかった/崩れなかった市民もすばらしく、丁度”Andor” (2022)のS1の最終エピソードを見たあとだと、これだ! って思うよ。 革命っていうのは通りの静かな音楽から始まってひとりひとりが立ちあがることなのだ、って。いまは穏やかな氏も物陰ではLuthen Raelみたいなことをどっしりと語っていたのかも知れない。
連邦国家が施策に織りこんでイメージしていた「解放」or 「緩和」がかつて強制編入された共和国の側からは全く異なるものとして受けとられていた、というのと、いったんそこで露わになった両者の溝は後からどちらがどうこうしようとしても決して埋められるようなものではなかった(そこを無理やり埋めようとするやり方にも違いはでて)その決定的な段差こそが文化であり歌となって溢れて、だからランズベルギス氏が音楽の先生だというのはとても象徴的なことだなあー、って。
そしてもちろん、このドキュメンタリーはウクライナの昨年から今までのありようも逆照射してはいないだろうか(ロシアという国の、国境に対して頑迷でどうしようもないところも)。 もし当時のゴルバチョフが今のプーチンだったら.. いや、当時のゴルバチョフを見ていたからプーチンはあんなんなっちゃったのか、とか。 でも最近、ほんとに国ってなんなの? いる? とか思うことばかり。利益権益を握った個人や企業が自身を維持するためにあるとしか思えないんだけど? 国。
初日だったからか映画とは別で撮られた直近のランズベルギス氏のインタビューと、チュルリョーニスのピアノ曲を演奏する姿の動画がおまけで上映された。
時代は異なるけど、Jonas Mekasがいて(亡命したけど)、Vytautas Landsbergisがいた国 – リトアニア、やはり行ってみたい。
12.13.2022
[film] Mr. Landsbergis (2021)
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