1日、月曜日の晩、MUBIで見ました。
監督のマティアス・ピニェイロについては、アテネフランセ文化センターでの「マティアス・ピニェイロ映画祭2015」で3本 - “Rosalinda” (2010), “Viola” (2012), “La princesa de Francia” (2014) - 見ていて、この作品も『エルミア&エレナ』という邦題で、同センターの「マティアス・ピニェイロ監督とアルゼンチン映画の現在」という特集で、2017年6月に上映されているのだが、この時はもうロンドンにいたので見ていない。
2015年に見た“Rosalinda”が『お気に召すまま』の、“Viola”が『十二夜』の、“La princesa de Francia”が『恋の骨折り損』の翻案であったように、ここではシェイクスピアの『真夏の夜の夢』が題材となり、例によって主人公(たち)の名前がタイトルになっている。
更に最初に「原節子に捧ぐ」と出る。 原節子とシェイクスピア。
冒頭、NYのLower EastのColumbus parkを見下ろすアパートからCarmen (María Villar)が1年間のフェローシッププログラムを終えてアルゼンチンに戻るところで、今度はアルゼンチンからCamila (Agustina Muñoz)が同じフェローシップでNYにやってくる。 彼女の使命は『真夏の夜の夢』のスペイン語への翻訳なのだが、その翻訳の扉の奥からいろんなものが飛び出してくるという話ではなくて、NYでできた恋人とか、旅をしながら絵葉書を送ってくるDanièlle (Mati Diop)とか、子供の頃に別れた父親をNYのUpstate (Rhinecliff)に訪ねたりとかが、”Carmen & Camila” - “Camila & Danièlle” - “Gregg & Camila”とか1対1関係(最終章だけ5人)のタイトルと共に取っ替え引っ替えで綴られ、進行する時制も1ヶ月前、2ヶ月前、3ヶ月前、と遡るのも現時点からなのかその章の時点からなのか明確ではなくて、それはおそらく、Camilaのなかにセットされた1年間のなかで、あ、そういえば、のようにクリックして戻っていくようなものだからよいのか。 展開される舞台もその時間によってアルゼンチンとNYを行ったり来たりして、アルゼンチンの空港に向かう景色とNYの橋の格子が交錯して、さてわたしは戻っているのか向かっているのか、どちらの方へ?
書いてみると難しそうで面倒くさそうに見えるその構造も、パーツはひとりとひとりの対話やキスや振り返りで出来ているので、ふんふん、て軽く流すことができて、そこらの壁に貼りつけられる『真夏の夜の夢』のテキストとか、Greggの作ったフィルム、などの他のアート作品によってかき回されて(でも実はそうでもなくて)、そもそもこれって誰の話だったかしら? 自分事? 他人事? みたいになって楽しい。 で、この楽しさはシェイクスピアのお芝居にお馴染みのもの、という気がするし、NYに暮らして、そこで起こる日々の冗談みたいなどたばたをスケッチしているようにも見える。 という点で、異国のひとが捉えたNYの映画としてとてもよいかんじになっているのではないかしら、って。 多層多面の解釈を可能にするオープンな作品にありがちな弱さ、がないこともないけど、NYの映画と置いてしまえばなんかよいのではないか(あまい?)。
で、そういう楽しくぴょこぴょこ跳ねたり転がったりの感覚にScott Joplinのラグタイムピアノがとてもよくマッチして素敵なの。
いろんな登場人物の自分勝手な目線とか妄想に曝されながら、自分でもあっぷあっぷしているだろうに、でも一応笑っとくか、みたいについ微笑んでしまうので、君の瞳に乾杯とか言われてちょっとかわいそう、というあたりが「原節子に捧ぐ」、だったのかしら。
次にくるシェイクスピア作品はなにかしら? チェーホフとかやんないのかしら?
日曜の午後にBlack Lives Matterのプロテストに行ってきた。 昨日のは逮捕者が出たとか聞いていたのだが、結果はとっても平和に地味に怒って膝をついてコールしてきた。 感染リスクはもちろんあると考えるべきなのでマスクして、でも行きの地下鉄の混雑ぶりにすこしびびったくらいで、みんなそれなりに距離はとって怒鳴る。 “Enough is Enough!“とか、”No Justice, No Peace!”とか、もちろん“Black Lives Matter!”も - コールしやすいし気持ちいいし。なんでUKがやるの? は結構立て札に書いてあった”UK IS NOT INNOCENT !”とかわんころも首から下げていた”SILENCE IS VIOLENCE !” ていうことよ。
あと、ボリスに対してはみんな相変わらず怒っていたので安心した。
6.07.2020
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