23日、火曜日の晩、BFI Playerで見ました。先の2月に劇場公開された際にBFIで監督のJessica Hausnerの小特集が組まれて、この新作も見なきゃと思った矢先にCovid-19がやって来ちゃったやつ。パンデミックの前に見ておけばよかった。
Alice (Emily Beecham)は植物お花会社のラボの植物のブリーダーで、フラワーショウ向けの新品種開発とかをやっていて、長期の研究の成果として手間を掛けてあげればあげるほど持ち主を幸せにしてくれるという新しい花の開発に成功して、自分の息子の名前をとって”Little Joe”と名付ける。あとはマーケットに出す前にアレルギー反応とかの治験をクリアするのみだが、自信があるAliceは規則を破って一鉢を自分の家に持ち帰り、息子のJoe (Kit Connor)に、これがLittle Joeで、しっかり世話をして大切に育てるように言う。
最初に異変に気づいたのはラボの同僚のBella (Kerry Fox)で、彼女が職場に連れてきた愛犬の様子が変わってしまった、と。もうひとりの同僚でAliceを崇拝して思いを寄せているChris (Ben Whishaw)もなんだかAliceに対する接し方が変わってきて、Bellaのクレームは以前に精神科に通ったりしていたし、そのせいでは? とか言われる。でもAliceにとってショックだったのはJoeで、離婚して別居している元夫からもJoeの様子が変わったんじゃないか? と言われ、GFを部屋に連れ込んでいたりこれまで決してなかったようなことがあって、なんかおかしいので問い詰めると、僕は変わっていない思春期だしそういうもんでしょ気にしないで、と言われる。アレルギーテストの治験に参加した人たちのビデオを見ても、だいじょうぶ、っていう人と、でもなんか.. という人に分かれていて、Little Joeを開発したAliceとしては会社からの期待もあるので進めたいものの、Joeのことが気掛かりで…
植物が人を食べたり刺したり殺したり、っていうのではなくて、植物は実験用の温室でひたすら花粉を撒き散らしているだけだし、その花粉が科学的にこれこれこういう影響を及ぼすのでやばい、というのが明確に示されるわけではない(それっぽい仮説のみ)ので、とっても薄ら怖い。ドラッグで人が変わるのとは別で、普段の社会生活はこれまで通りにきちんとしているのだが、日常の関心の向き方が変わる – Little Joeを大切にすることがなにより大切でそれ以外はどうでもいい – それが飼い主様の幸せにも繋がるはず、ていう利己的な幸せのデザイン。
ここで想定されている「幸せ」の考え方がうまいな、って思って、なんかの花粉にやられるとみんな政治に無関心になって排他的になって、でもお国すごいになっちゃうとか(どっかの国だとスギ花粉とか?)、そんなふうにいくらでも転嫁転用できるネタかも。Covid-19の場合はウィルスとしてもっとダイレクトに社会のありようを変えてしまったが、ここで変えられた社会の仕組み(distancing – new normal)は長い時間をかけて我々の行動様式を変えていくことになるだろう、なんて。
誰かに/何かに献身的に奉仕すること=幸せ(がやってくる)っていうのはおかしいよね、っていうのが、これまで研究とJoeの教育に没頭してきたAliceにブーメランで跳ね返ってくる、そういうドラマなのだが、どっかの国を見ていても(自分でない誰かの)幸せ信仰ってほんとタチが悪くて怖いな、って。
結末は書きませんけど、Jessica Hausnerさんなので明るくはない。そうだよね、としか言いようがない底冷えのする怖さがあとからじんわりと。”Lourdes” (2009)にあったのと同質の。
Emily Beechamさんは安定の巧さなのだが、不気味研究者モード全開のBen Whishawがお見事。このキャラのままQとかやってくれてもいい。
音楽はMaya Derenの作品でも知られる伊藤貞司の和楽器を使ったスコアと犬のばうばう声が重なって吹きまくっててなかなか異様で、最後にこれまた異様なMarkus Binderの”Happiness Business”ていうのが流れる – ちっともHappiness感のない嫌な風味のやつ。
もうじき6月も終わりで、こんなふうにPCの画面で映画を見始めて3ヶ月が経ってしまった。
こうやって映画を見ることと映画館で映画を見ることの違いについてそろそろなんか書いた方がよいのかしら、とも思うのだがそんなことより見たい映画が拾っても拾ってもぜんぜん無くならない方が恐怖で…
6.29.2020
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