6.09.2020

[film] Shirley (2020)

6日、土曜日の晩、Film ForumのVirtual Cinemaで見ました。

予告を見た多くの人がそうだったと思うが久々にビジュアルだけでぞくぞく来るやつで、しかもElisabeth MossがShirley Jacksonを演じる、それだけでもう必見マークが。

Virtual Cinemaだからか最初に監督のJosephine Deckerさんが出てきて明るく挨拶する。感想を書かないままになっているがこの人の前作 - ”Madeline's Madeline” (2018)は5月にMUBIで見ていて、Molly ParkerとMiranda Julyの母娘と演劇について、おもしろいんだけどどう書こうかねえ、とかやっているうちにいつの間にー。

小説家Shirley Jacksonの評伝、というより2014年に出版されたSusan Scarf Merrellの小説(未読)に基づくもので、Martin ScorseseがExecutive Producerをやって、今年のサンダンスではU.S. Dramatic Special Jury Award: Auteur Filmmaking、というのを受賞している。

若いRose (Odessa Young)とFred (Logan Lerman)のカップルが列車でいちゃつきながら旅をしてて道中、Roseは『くじ』を読んで、これ怖いわ、とか言っているのだが、ふたりは Bennington Collegeの教授Stanley Hyman (Michael Stuhlbarg)とShirley (Elisabeth Moss)夫婦の家に着いて彼らの家に間借りして暮らしていくことになる(FredがStanleyの助手としてBenningtonで働くので)。

でも着いた途端にShirleyはRoseが妊娠していることを見抜いたりいろいろ陰険に意地悪してくるのでRoseはこんなとこにいたくない帰る、って泣くのだが、暫くの辛抱だからってなだめて暮らしていく。
こんなふうにShirleyその人は最初からえらく不気味で怖くて(反対に夫Stanleyはバカ明るくて)、どう見ても怪異の館にたどり着いたカップルの吹きだまっていく戦慄と恐怖を描くホラーの仕立てなのだが、夫たちが学校に行っている間、Benningtonで起こった女子学生の失踪事件を元に『処刑人』(1951)を書き始めるShirleyと渋々家事をしながらその様子を恐々覗いて怒られたり怒鳴られたりして散々のRoseの間にだんだんと共犯関係のような奇妙な絆が生まれてくる。

現実の事件とミステリーの成立を対置し、その背後に彼女たちそれぞれの置かれた孤独、不安に不満に不機嫌、バカで陽気な男共とジェンダー、家事に育児、教授会を中心としたサロンソサエティ、家屋や部屋の暗がり、窓の向こう側、などを緻密に置いていくうち、ひとりの女性が姿を消してしまう/消えてしまうその因果が向こうから ― それはどこからやってくるのだろう、感覚や視覚の襞にカビやキノコの菌糸のようなのがびっちり繁っていって気付いたら森の奥とか穴の奥の戻れないところに来ている。 ShirleyとRoseはその感覚を共有したまま立ち竦んで互に離れられなくなっていくかのよう...

Shirley Jacksonの作品をそんなに読んできた訳ではないのだが、読み進んでいくときに背筋近辺に湧いてくる言いようのない気色悪さってまさにこういうのだったかも。そして彼女はああいう屋敷の光と影の狭間で作品を編んでいった、その光景がありありと浮かんでくるのだった。

いろんな人がいろんな映画を参照するのかも知れないが、例えばふたりの女性の旅、としてLynchの”Mulholland Drive “(1996)とかはあるかも。でもあそこにあった芝居小屋の見世物を眺めているような感覚はない。お茶の間の、ちゃぶ台とかソファの隅で生まれる生々しい恐怖と不機嫌に浸かって翻弄されて世界が歪んで縮んでいって、その先にあるのは..

変幻自在の容貌に表情の歪みに翳り、ミソジニー野郎が逃げ回っていく退路をあらゆるバリエーションでもって断って追い詰めていく催眠術師のようなElisabeth Mossがとにかくすごくて、かっこいいったらない、と言おう。

神経の襞を撫でにくる音楽は、こないだの”The Assistant” (2019) でもきりきりさせてくれたTamar-kaliさん。

これまで”Shirley”といえばBilly Braggの”Greetings To The New Brunette”のことだったのだが、この映画の登場で少し意味が変わったかも。でもどっちにしてもShirleyって最強である。


今日は6月9日なのでロックの日なのかしら? それにしてはなんも聞こえてこなかったかも。まあそれどころじゃないよね。
まだ火曜日だし。

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