8.06.2015

[film] Love & Mercy (2014)

1日土曜日の夕方、渋谷で見ました。
この日公開された音楽映画は2本あって、でもやっぱしこっちからだよね(年寄りは)、と。

既にThe Beach Boysとしての成功を収めて、Pet Soundsの制作に専念するためツアーから離脱することを決めたBrian Wilson(by Paul Dano)と、Dr. Eugene Landy (Paul Giamatti)の管理統制下で「治療」を進めている最中、Melinda (Elizabeth Banks)と会った頃のBrian Wilson (by John Cusak)が交互に出てきて、一方はキャリアの頂点(商業的成功は別として)を極めた後に歯車が狂っていくさまを、もう一方は歯車が壊れて全てがばらけてしまった後、欠片のひとつひとつを拾い上げていくさまを描いている。

あたりまえだけど実話で、欧米のポピュラーミュージックをずっと聴いてきた我々にとって、これは自明の痛ましく辛い過去のお話しであり、他方でこの映画の時代のあと、創作やライブ活動をふつうにこなすことができるようになった現在の彼のことも知っている。 なので、ひどい事故にあったけど今は無事なのだからよかったよねえ、という視点で、ある程度は明るい気持ちで見ることができる。 ある程度は。

映画が描いている方角はふたつあって、病気になって(or ドラッグにやられて)ダークサイドに転がり落ちていく抑圧感たっぷりの暗いやつと、抜け殻の監禁/軟禁じごく状態から愛と光をつかんで這いだしてくるやや明るめのやつと、でも映画のタイトルは”Love & Mercy”なので、どちらかというと明るめ、最後はその光の下で、子供時代から現在までのBrianがひとつに、一人格に統合される。 その啓示をもたらしたものは、Melindaの愛と、音楽( - 明示されてはいないけど)だったと思いたい。- ”Good Vibrations”

なんとなく The Whoの"Quadrophenia" - 「四重人格」をおもいだした。あそこでの人格は「反抗」ていう振る舞いの反復を通して分裂していって、それが"Love, Reign O'er Me"ていう啓示と共に統合される。 こっちは「従順」ていう行動のなかで時系列的に分断・分裂していった自我が"Love & Mercy"のもとで統合される。 前者は海に浮かんで、後者はプールに浮かぶ。

自分がいちばん音楽を聴いていたころ、Brian WilsonていうのはSyd Barrettと同じ、取り返すことのできない音楽史上の悲劇とされていて、だから88年にソロが出たときもすぐにアナログ買って(もちろん、パイドパイパーハウスで。横浜行かなきゃ)、聴きこんだけどなんか矯正感が生々しくて痛ましくて、その後しばらくしてすごくびっくりしたのは、95年頃、夜中にLate Show With David Lettermanを見ていたら突然、彼(と娘のWendy)が出てきて"Do It Again"を演奏したことで、そのあたりからぐいぐいよくなっていって、結局日本でもNYでもLondonでもライブを見ることができた。 "Pet Sounds"も”Smile”も、箱を含めてどれだけ買わされたかわかんないけど、でもとにかく、今は元気だからいい。

で、元気だからいい、というわけではないけど、だからこそ映画では、2度に渡って彼の前に現れた圧倒的強権的な父性とか、レコード業界のどす黒さとか、そういう救いようのない闇に敢えて踏みこんでみる、というのもあってよかったのではないか、とか。
あれは間違いなく悲劇だったし失われたものは決して少なくなかったはず。 これこそが決定版!ていう"Smile"のブートレッグを何枚買わされたことか。 2004年に出ることがわかっていたら、ルイス・シャイナーの「グリンプス」だって、ねえ。

でも、一番たまんなかったのはPet Sounds Sessionのスタジオのとこで、それはそれは幸福をもたらす光景で、これがあるんだからもうぜんぶ許す。 "Jersey Boys"のスタジオシーンの比じゃない。 Hal Blaineがいて、Carol Kayeがいて ... 音楽が天井を突き抜けて降り注ぐんだよ。

もし。 もし"Wouldn't It Be Nice"や"God Only Knows"や"Don't Worry Baby"が作られなかったら、ラブコメのサウンドトラックの世界はどうなっていたか、そもそもラブコメていうジャンル自体が成立しえなかったのではないか、くらいのことは思うよ。

あと、圧巻としか言いようがないAtticus Rossの音楽 - Brianのあたまの中で鳴っている音の雲 - やっぱしさすがだよねえ。

あと、Paul Giamatti、おっかなすぎ。 こないだの”The Congress”ではあんなによい医者だったのに。

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