8.28.2023

[film] Maine Ocean (1986)

8月5日、土曜日の午後、ユーロスペースの特集 -『みんなのジャック・ロジェ』で見ました。

この特集のタイトルはやっぱり素敵で、「みんな」にとって待望のヴァカンスの到来でありその映画である、というのと、彼の映画の基本にありそうな、それを見るみんなが緩く巻きこまれて単に主人公たちを見守る、というよりまず自分だったらどう動くか、動かなきゃいけないかのアタマになってしまう – なんたってヴァカンスなんだからさ – というみんなの楽しさへの期待に撚りあっていく、という点など。

前回(or 前々回?)の特集でやった『オルエットの方へ』(1971)は入っていないものの、見たことないのも忘れているのも多いので見ないと。『メーヌ・オセアン』、1986年のジャン・ヴィゴ賞を受賞している。脚本はJacques Rozierと女性弁護士役で出演しているLydia Feldの共同。

パリからナントに向かう夜行列車「メーヌ・オセアン」号にコートを羽織ったDejanira (Rosa-Maria Gomes)がばたばたと乗りこんで、それをなんか怪しいと思ったのか列車の検札長 (Bernard Ménez)と検札係のLucien (Luis Rego)のふたりが彼女の切符をチェックするとパチンをしていないし二等車の切符で一等車にいるし、いろいろ問い詰めても言葉があまり通じないので困ってて、その様子を横で見ていた弁護士のMimi (Lydia Feld)が声をかけて彼女を助けてあげて、検札組は面倒なのにあたっちまったぜ、というかんじで引き下がる。

それで仲良くなったDejaniraとMimiはこれから向かう先でMimiの引き受けた裁判があるのでそれを片付けてから一緒に遊びましょうか、って漁師のPetitgas (Yves Afonso)が起こした自動車事故の裁判の弁護にあたるのだが、法廷で言いたい放題べらんめえでぶちまけてしまったPetitgasの圧倒的敗訴に終わって、でも全員ちっともめげずに彼の住むユー島で寛ごうとすると、そこに検札長と検札係のふたりがちっとも楽しくなさそうに – でも一応休暇で現れたので、なんだてめえら、ってざわざわするのだが、それもNYからDejaniraを追いかけてやってきた興業主(Pedro Armendáriz Jr.)の登場で搔きまわされて、Dejaniraってすごいんだから見せてやるぞ、と島の公民館のようなとこにみんなを集めて歌と踊りのどんちゃん騒ぎが始まって…

ここまで、まあなんとてきとーにいいかげんに転がっていくことだろうか、こんなにぐだぐだの展開でよいのか、って思いつつもサンバの歌(Chico Buarque !)と踊りがくすぐられるように楽しくて – ここでのカメラの動きとか音の入り方とかぞくぞくするくらい素敵 - 他の村人たちと同様になにがどうなっているのかよくわかんないけど引きこまれちゃっていいのか.. いいよな! になってしまう不思議。パリの夜更けの改札からここまで、なんとおもしろい線が引かれてしまうことか。もちろんそれを引いたのはJacques Rozierなのだろうが、彼の作為のようなものはちっとも見えてこないの。

この後だって、検札長の歌をすばらしい!(←どこがすばらしいんだかわかんない)って讃えた興業主が一緒にNYに来ればスターにしてあげるぞ(←なにを根拠に言ってるのかわかんない)、って彼を口説いて、舞いあがった検札長は家族にそれを告げて支度を持ってこさせてもう仕事も捨てるぞ、って興業主の用意した飛行機に乗りこむのだが、滑走路を動きだしてから気の変わったDejaniraが飛行機に乗る、って言ってきたので検札長は飛行機から放り出されて勤務先である「メーヌ・オセアン」にとぼとぼ – これはこれで乗り物を継ぎながらの冒険だったり - 戻ることになるの。

誰が主人公なのか、お話しの軸となるのはなんなのか(教訓? 格言? 伝説?…)、まるで見えない、というか監督の作為なども含めてそういうのを回避するように動いていく – そうやって残されたものがなんなのか、というと、これこそが目の前にひろがるまっさらなヴァカンス! - どんなくだんないしょうもないことが起ころうとも上等よ! っていう状態に態度、そこに向けた決意ではないか。Jacques Rozierの映画に触れる経験って、その心地よさって、そんな陽光にさらされたまっさらのシーツみたいのが見えるからではないか、とか。(この映画の季節は冬だけど)

そしてそれこそが、「みんな」が映画に求めてやまない特上の興奮であり、Jacques Rozierをいつ何回見ても新しいと感じさせるなにかなんだな、って。

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