8.23.2023

[film] Winter Kills (1979)

8月16日の夕方、Film Forumで見ました。邦題は『大統領の堕ちた日』。
Film Forumは70年代からある非営利系の映画館 - シアターは3つ - で、独立系の新作とレパートリーと呼ばれる旧作を上映しているところで、00年代の初め頃はほんとうによく通った自分にとっての映画の学校で、成瀬も溝口もここの特集で初めて知ったの。

ここはポップコーンもおいしいし、デリダが来た時に絶賛したというバナナブレッドが有名で、実際にLife Saverのおいしさ(でもキャロットケーキも好き)なのだが、今回は疲れたり眠かったりしたので食べず。でも始まるまでロビーでぼーっとしているだけでしんみり。ライトが落ちて予告が始まる前のジングルとかも、昔となにひとつ変わっていなくて泣きたくなる。こういうのって大事よね。

原作は“The Manchurian Candidate”のRichard Condonによる同名小説(1974)、監督はWilliam Richert、撮影はVilmos Zsigmond、音楽はMaurice Jarreとなんだか豪華で、でもプロデューサーのうち2人はマリファナの売人で、ひとりは封切り前に射殺されちゃっていたり、なんというか..  今回のリバイバルはQuentin Tarantino Presentsによる35mmのニュープリントでの上映だって。

1960年に暗殺されたアメリカ合衆国大統領 – ほぼJFK - の暗殺実行犯は裁判を受ける前に殺される - の異母弟で富豪の御曹司でもあるNick Kegan (Jeff Bridges)は、暗殺から19年たって石油タンカーに運び込まれた包帯ぐるぐる巻きの男から、自分は暗殺犯の片割れだと言われ、包帯男は犯行に使ったライフルがある場所を言い残して死んでしまう。

Nickは友人と大尉と一緒にライフルがあるという場所に行ってみるとブツは本当にあったのだが、その横を女性が笑いながら自転車で通った直後に大爆発が起きて、Nick以外は死んじゃってライフルも消えてしまい、亡くなった大尉は後で2年前に亡くなっていたことがわかる。

Nickは父のPa Kegan (John Huston)に会いに行くと、彼はいきなり逃げようとするのだが、真相究明を約束して誰それに会うように息子に指示して – Nickがそこに向かうとまたしても.. こんなふうに玉突きのように誰かに会いにいったり追いかけたりするたびに逆に追われたり誰かが死んだりあんた誰? だったりが繰り返され、いつまで経っても真相に辿りつくどころかその外延をぐるぐる回ってその面積は広がって誰ひとり信じられなくなっていく。

この内容だと殺すか殺されるかの緊迫したサスペンスホラーになっていってもおかしくない(原作はそっちの方らしい)のだが、大統領暗殺の真相を軽々とすっとばし、あまりにあっけらかんと事故や殺しが勃発して連鎖していって、出てくる人々のあまりの中味のないかんじに、その沼の底なし意味なしの濁り汁の攪拌にこれはなんだ ? って笑うしかなくて、実際にみんなげらげら笑いながら見ている。

真実と思いたいものが真実になるのよ、っていうQAnonの時代にふさわしい幾重にも連なる陰謀なのか単なるフェイクなのかただそのままなのかが渦をまく嵐が「真実」のありようをどうでもよいものに替えて、そうなると主人公たちの存在もとっても軽い紙風船かただのウソ人間だかに見えてきてしょうがなくて、でもそんなでも(そんなだから?)人は人を恋しいと思ってしまうんだわ、とか。このすっとこどっこいのドラマを書割の様式美のなかで病的にきっちり見せたのが、例えばWes Andersonのカラフルな世界だったりしないだろうか、とか。

出演者はやたら豪華で、中心にいる父子に加えて、父の主計官役のAnthony Perkinsとか、執事の三船敏郎とか、Eli WallachとかDorothy Maloneとか Sterling Haydenとか、カメオでElizabeth Taylorとか、そんなどこかでよく見た顔たちが右から左から湧いてくるところもまたフェイクぽさに磨きをかけているような。

まだちっとも枯れてごわごわしていないJeff Bridgesの疾走ぶりも素敵だし、でも絶妙な余韻というか後ろ髪を引っ張って残す切ないかんじは彼のものだと思うし、見てお得なやつだったかも。

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