8.06.2023

[film] Simone, le voyage du siècle (2021)

8月1日、火曜日の晩、ヒューマントラストシネマ有楽町で見ました。
邦題は『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』、英語題は”Simone Veil: a Woman of The Century”。「政治家」は一面でしかないことが映画を見ればわかるのに。

シモーヌ・ヴェイユって、最初は当然思想家のSimone Weil (1909 - 1943)のことだと思ってて、なんかへん違くない? と思ったらSimone Veil (1927 - 2017)の方だった(恥)。軽く1時間半くらいの評伝映画だと思っていたら2時間20分びっちり、すばらしい濃さだった。それだけのことはある、のは見れば..
監督は、エディット・ピアフやグレース・ケリーなどの評伝を作ってきたOlivier Dahan。

晩年のSimone Veil (Elsa Zylberstein)が夫のAntoine (Olivier Gourmet)や孫たちと落ち着いて平和に暮らすなか、過去を回顧する形で、冒頭に家族で幸せな夏の時間を過ごすJacob(彼女の旧姓)一家が描かれ、戦時下で若いSimone (Rebecca Marder)がやはり法律を志すAntoine (Mathieu Spinosi)と出会って結婚して、周囲から反対されながらも弁護士への道を目指し - この辺の様子はRBG - Ruth Bader Ginsburgのそれに近いような - 74年に腐れた男性議員達からの非難を正面から受けとめつつ中絶の合法化 - 中絶法を通して、79年には女性として初の欧州議会議長に選出され、そんな輝かしい、というか信念を貫き通したキャリアの裏では常に周囲の無理解や孤立に晒されつつも、彼女の記憶は常にアウシュビッツでの「死の行進」の辛い記憶 - 母Yvonne (Élodie Bouchez) を失ったこと、父や兄とは離れ離れになってそれきりとなったこと、戦後に事故で失った姉Milou (Judith Chemla)との思い出に還って、それらがどんなに歳を重ねてもPTSDとして彼女を苦しめていった。

中絶法のところ、EU議長のところは割と誰でも知っているところで、他にもホロコースト被害者の救済やそのアーカイブ作成、HIV感染者の人権やアルジェリアの活動家への虐待問題、刑務所の受刑者の人権問題など、その現場に赴いてなんとかしようと奮闘する姿が出てきて、その人権に対する目線は一貫していてぶれがない - だって人権とはそういうものだから。そしてそれは「死の行進」という極限状態を家族と抜けなければならなかった、その経験が彼女の視野と行動をそう向かわせた、のだと。

結構頻繁に、その必要性があまり見えないかんじで時系列が切れたり変わったりジャンプしたりしてやや戸惑ったりもするものの、どこを切っても何かや誰かに(あるいは自身の記憶に)追い詰められ苦しめられて大変そうで、そんな中でもやはりアウシュビッツでの体験の凄まじい描写は終盤の長いパートを占めて、これらは既にいろんな映画や本で見たり読んだりしてきたとは言え、なぜ人類があんなことをできてしまったのか、Simoneがどんなに安定した老後を迎えてもフラッシュバックしてくるありえない地獄であったことを改めて叩きつける。それが原題にあった”the voyage of the century”なのだと。

映画は彼女が亡くなるシーンなどは示さず、最後まで海辺でこちらに向かって微笑んでいるところを残し、その像と彼女が戦ってきたものぜんぶを閉じないまま、なぜ人類は虐待やヘイトや歴史の改竄や忘却を許したまま同じことを繰り返そうとするのか、こちらに叩きつけるようにして終わって、それは彼女がずっと自身の活動を通してずっと訴えてきたものなので、これを最後に持ってきたのはよかった。本当に本当にそうだと思うから。バカな政治家はしょうもないけど(しょうもなくないけど)、教育もメディアも、この点については果てしなくどうしようもない。絶望しかないわ。

というのを『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』を巡るモグラ叩きのやりとりを見たり、原爆の日の恥を知れ、しかないこの国の政治家の言動を見たりして改めて思った。 あと、バカに扇動されてEUを離脱したあの国のことも改めて、とか。

自民党の例の「研修」も現地行かなくたって、この映画1本見せて感想書かせれば十分だったと思うわ。


明日からどこかに出る(仕事)ので更新は滞るかも。

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