8.14.2023

[film] Variety (1983)

8月11日、金曜日の夕方、BFI Southbankで見ました。

出張の最後の日で天気はぽかぽかと気持ちよく、最後の平日なので晩の食事だか飲み会だかを早めに切り上げてなんか見れたらよいなー、くらいで、本日はお腹の具合がそんなによくないのでさくっと食べて早めにあがれればうれしい、と申し出たら、それならなしにしてまたの機会に、ということになった。ので、いそいそとチケットを取る – もう子供じゃないのでくよくよしない。

公開40周年を記念した2Kリストア版が少しだけリバイバル公開されるのを記念して、上映後に監督Bette Gordonのトークがある。

BFI Southbank、自分にとってはNYのFilm Forumと並ぶ映画の学校で、2017年から2020年のロックダウン前まで、さっき数えてみたらここに来て261本見ていた。その前の長期出張で滞在していた時も含めると相当の数になるはずで、久々に来れてうれしいよう、しかない。 2日前の”Groundhog Day”の上演前にも来たのだがNetflixの映画のプレミアかなんかのイベントをやっていて中には入れなかったの。

ロックダウン直前にはWeb予約のみで窓口もなくて、作品紹介のプリントアウトもなくなっていたのが、ぜんぶ、何事もなかったかのように復活していた。よいこと。

“Variety”はNYのインディペンデント/アンダーグラウンド映画の古典で、Bette Gordonのストーリーを元にKathy Ackerが脚本を書き、撮影はTom DiCilloとJohn Foster、音楽はJohn Lurie、Special ThanksにはSara Driverの名前がある。

2018年にもBarbicanで上映された際に見ていたのだが、すごくきれいな画面になっていた。冒頭のプールの場面の水、女性たちのコスチュームの色や模様、夜景や朝のFulton Marketが美しいこと。

ジムのプールで泳いでいたChristine (Sandy McLeod)が着替えながら友人のNan (Nan Goldin – まだそんなに有名になる前、本作ではスチール写真も担当)にお金がなくてやばい、とこぼしていると、手っ取り早く稼ぐなら、って映画館のチケット売り場のバイトを紹介してくれる。そこはTimes Squareのポルノショップが並ぶ界隈にある”Variety”というシアターで、やっているのはポルノ映画だけ、人ひとりが入れるだけのボックスに入って、やってくる男性客にチケット($2)を売る。もぎりはいつも気のいい陽気なJose (Luis Guzmán)。

座って機械的に売るだけ、の簡単な仕事ではあるが、客が彼女を見る目やたまにチケットを渡すと握り返してきたり、背後でずっと鳴っている喘ぎ声などに少しづつ影響を受けて変容していく。

男友達のMark (Will Patton – ”Desperately Seeking Susan”の変態)と会って話しても、ポルノ上映館でのバイトについて話し始めると雄弁だった彼がおとなしくなって帰ってしまったり、頻繁に映画館にやってくる上等そうなスーツをきた中年のLouie (Richard M Davidson)に声を掛けられて、運転手付きの車でヤンキース・スタジアムのプライベートボックスでデートしたり、その後に彼のことが強迫的に気になって追いかけてしまったり、バーで女友達と話していてもこれまでと全く違う聞こえ方がしてきたり。あと、電話機に残っているSpalding Grayの声とか。

これまでふつうに暮らしてきた、と自分では思ってきたChristineが、お金が必要だから、という理由で”Variety”という看板の特定の性別のある欲望に特化した映画をエンドレスで流し続ける場所の突端に置かれて「彼ら」の目に晒されること – 彼らはChristineを「ふつう」の女性としては見ないだろう - を通して、「彼ら」が彼女をないものとしてスルーして、続けてポルノ映画を見ることで得ようとしたものはいったい何なのかを見よう、と探り始める。確信的に、というより自分でもわけがわからず、なにかに突き動かされるようにして。

そういうこと、そういう作用を及ぼす街としてのNew Yorkの夜と朝、彼女の小さな部屋の風景もここには活写されていて、”Taxi Driver” (1976)のようなすごいことが起こるわけではないものの、あれを女性視点で反転させたようなものでもあるのだろう、と思った。

上映後のBette Gordonさんのトークは当時のNYのハウジングマーケットの話から(当時のNYのアート関係者ってだいたいこの話題を通るよね)、そこらじゅうに知り合いや関係者がいて話したり頼んだりすることができて、そういう中から生まれたものだ、というのをものすごい勢いで話して止まらなくて、初めてなのになんか懐かしく、ああNew Yorkもよいなあ、って。 James Benningはこの人と”The United States of America” (1975) で旅をしていったのね(ふたりは夫婦だった)。

終わったのが20:30で、外はまだ明るくて金曜日なので川辺でみんな楽しんでいて、ああこのかんじ! って踏みしめながら橋を渡って帰った。

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