8月22日、火曜日の晩、ユーロスペースのジャック・ロジェ特集で見ました。
アメリカから戻った翌日、(自分の)ヴァカンス後の泥のように溜まった疲れ & 仕事したくないーをどうにかするには、こういうのをぶつけるしかない。 邦題は『トルテュ島の遭難者たち』。英語題は”The Castaways of Turtle Island”。 ”Du Côté d'Orouët” (1973) -『オルエットの方へ』の次となる長編。なかなかとんでもなくて、大好き。
冒頭、暗い部屋の中で黒人女性のヌードのポスター、ぐんにゃりサイケな照明などがある部屋で悶々としているJean-Arthur Bonaventure (Pierre Richard)がいて、彼の嫉妬深い妻をどうにかするために架空の恋人をでっちあげてみれば、現れたのはポスターの女性とそっくりの女性で想定と違って強引で、あれこれやってられないわ、になってそこから逃げるように勤務先のツアー会社で思いつきのように架空のヴァカンス・ツアーをでっちあげ、ロビンソン・クルーソーよろしく無人島でのサバイバル体験、みたいな企画をてきとーに立てみたらあっさり通ってしまい参加者も集まって、Jean-Arthurに同行する予定だった社員はそいつの弟 - 'Petit Nono' (Jacques Villeret)に替えられたりしたものの、ツアーが始まってしまう。
まったくきちんと計画を立てていなかったので、なにもかも想定外の行き当たりばったりで、なんか起こればPetit Nonoが適当に動いてなんとかするか、文句を言う客を放置するか - 客は離脱するわけにもいかないので、ずっとその辺にいるし - で、全体としてはめちゃくちゃ、目的の島に着いてからも別に無人島でもないしサバイバルもないしふつうに不便なだけだし、今ならSNSでさらされて大炎上しそうな事態が次から次へと起こって退屈はしない。「トルテュ島 – 亀島」というありもしない島の風土などが現れるわけでも、そこでの「遭難者たち」なんて人々が出るわけでもなく、このタイトルからしてツアー宣伝のそれと同じような詐欺まがいのでっちあげなのだが、全員がどんなにひどい状態になっても/されても、牢屋に入れられたってヴァカンスを楽しむんだから黙っとけ、みたいなやけくそでがむしゃらの意思で会社側も客側も結ばれていって、というか各自勝手に動きまわっていて、それはヴァカンスで新たな恋を、みたいのとはかけ離れた狂ったドキュメンタリーのようなノリを生んでいて、その狂いようときたら”Maine Océan” (1986)の比ではない。”Maine Océan”はまだ自分たちでなんとかコントロールできそうな余裕、みたいのがあったけど、こっちのはまるで戦争状態のような混沌が次々と襲ってきて - ヴァカンスなのに – 全員が狂った夢のなかにいるようで。なので、後から足されたというパリに戻ってからの話はなんだか白々しい。それもまた、ではあるのだろうが。
あと、全体をどうしようもなく怪しくしてしまっている(←ほめてる)のがツアー客でもないのに船にいてビリンバウをべんべん鳴らして歌っていたりするNana Vasconcelosで、歌は「バイーア」の地名も聞こえてくるDorival Caymmiの曲で、この危機的というのか野性的といってよいのかの状況にはまっていて楽しい。Nanaがこんなところに登場するとは。あと、Pierre Barouhもいるのね。Jacques Rozierのブラジル音楽人脈、少し気になる。
夕陽に照らされた船のシルエットからなんとなく“Apocalypse Now” (1979) -『地獄の黙示録』を思い浮かべてしまったのだが、あの映画も室内で燻っておかしくなったウィラードが扇風機を凝視するところから入り – 軍のミッションではあるが - 船で河を上って予測不能なありえない経験でかき混ぜてひとりひとりのタガが外れていって… 目指すは冗談のような「王国」だったりとか、Jacques Rozierがヴァカンス(人を生き返らせるやつ)を題材に撮ったやり口を戦争(人を殺していくやつ)に適用してハリウッド的なスペクタクルとして再編成したのが“Apocalypse Now”という戦争についての戦争映画、だったのではないか。 制作現場のありようがテーマに直接的な影響を及ぼすあたりも。
あと、'Petit Nono'の人って『カルメンという名の女』(1983)でジャムの瓶に指つっこんでなめなめしていた彼だよね。ゴダールも「監督」役で出てきたら(絶対馴染むし)おもしろくなっただろうにー。
8.29.2023
[film] Les naufragés de l'île de la Tortue (1976)
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