10月10日、休日の午前、シネマカリテのクロード・ミレール特集で見ました。これがこの特集の最後の1本。
邦題は『勾留』、英語題は”The Grilling”。こんなのが劇場初公開だったなんて信じられない(くらいすてき)。 以前にソフト化されていた時の邦題は『検察官 レイプ殺人事件』だって..
原作はJohn Wainwrightの”Brainwash”、映画は1982年のセザール賞のBest Writing, Best Actorなどいろいろを受賞している。音楽はGeorges Delerue。
冷たい雨ざあざあの大晦日の晩、ガラスや仕切りが収容所のように見える警察署の尋問部屋に裕福な公証人のJérôme Martinaud (Michel Serrault)がパーティの装いのまま呼びだされて、密室で少女2人の暴行殺人事件の取り調べ尋問が行われる。任意同行なら大晦日だし帰りたいのだが、とJérômeは言うものの、取り調べにあたる刑事のAntoine Gallien (Lino Ventura)とMarcel Belmont (Guy Marchand)はそんなの知らんというかんじで淡々と、犯行当時、犯行現場近くにいたことを認めるか、いたのであれば理由はなにか、なぜどうやって遺体を発見したのか、などを辛抱強く、強い恫喝などせずに聞いていく。明らかに言い訳みたいなその場限りの嘘っぽい供述が出ても深く突っこまずに辛抱しながらじりじりと詰めていって、Belmontの方は我慢できずに苛立ってGallienが席を外した隙に殴る蹴るをやったりしてしまうのだが、Jérômeの方は取り乱したり正気を失うこともなく落ち着いていて、同様に無表情にどっしり構えて少しづつ距離を狭めていくGallienとの睨みあい勝負になっていく。
その時、犯行現場の近所にいたからと言って、それが決定的な証拠に繋がるわけではもちろんなく、なんでその時間に彼がそこにいて何をしていたのかを明らかにしなければいけない、最後のぎりぎりのところで、Jérômeははぐらかしを続けていて、難しいけど長期勾留して吐いてもらうしかないか、となってきたところで、Jérômeの妻のChantal (Romy Schneider)が別室にやってきた、と。
Chantalは冷静を装いつつも張りつめていて、でももう我慢できないと、彼女の8歳の姪CamilleとJérômeの間に彼女の実家で起こったことについて苦痛と共に吐きだすように語って、それを受けたGallienはこれでもう決まりで終わりかも、とJérômeのところに戻ってそのことを告げると彼も諦めたようになって、年の終わりの長い夜が明けた、って外にでると..
攻防の始めからこれはどう見ても白黒の先が割と見えているやつ、向こう側とこちら側がはっきりしていて、あとは細部や動機を掘ったり固めたりするために時間を要するだろうが、少なくともJérômeはこの件についてなにかを知っていそうだし、GallienはJérômeのそういう防御の素振りから時間が経てば必ず崩れる/崩せると踏んでいて、「勾留」された状況下でのやりとりを見つめる我々はその攻防をチェスとかスポーツのゲーム(or 金網デスマッチみたいなやつ?)を見るように見る、のだと思っていた、わけだが、ゲームがその通りに推移してくれる保証なんて実はどこにもなかったのだ、ということが最後に明らかになる。そのものすごい残酷さと悲惨、それがもたらす絶望ときたら。
夜の闇はいったいいくつあるのか? 打ち捨てられて横たわる体はいくつあるのか? ひとつ開ければ必ず誰かのー。
最後までトーンの揺るぎがない鉄面のMichel Serraultの演技もすごいが、砂のようなその表面を辛うじて保ちながら言葉を紡いで吐き出していくRomy Schneiderもすばらしい。この夫婦の間にはあと数千の秘密が眠っていそうで、ずっと勾留状態にあったのはそれらの砂のなかに埋められてきた彼女の方だったのではないか。登場シーンは短いのに、最後にぜんぶ持っていってしまう。
そしてそれらの鉱物らを前に一切表情を変えず/見せず、目の前のあれこれを「処理」していくLino Venturaの冷徹さ、おっかなさ- “L'armée des ombres” (1969) - 『影の軍隊』の頃からの揺るがない組織の要というかとにかく一番怖くてもっとも敵にまわしたくないやつ。勾留された先に彼みたいのが立っていたら、その時点で白旗あげるしかないわ。
Lino Venturaは、先月からMOMAのフィルム部門でマチネーでずっと特集がかかっている。クロード・ミレールは、他のもぜんぶ出してほしい。
10.25.2022
[film] Garde à vue (1981)
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